2020 アウトルック・シリーズ:アジア・クレジット

フィオナ・チャン
アジア・クレジット・ヘッド (除く日本)

2019年のアジア社債市場は、良好な投資環境を背景に、高いリターンを示しました1。グローバルな低利回り環境が相対的に利回りの高いアジア地域への資本流入を促したこと、堅調な起債、健全な企業ファンダメンタルズがプラス材料となりました2。2020年にクレジットの状況が著しく悪化することは考えにくいものの、相対的に脆弱な非公開企業や戦略的重要性が低い中国国有企業(SOE)に対する圧力は厳しさを増す可能性があります。本稿では、2020年も慎重な投資姿勢を崩さず銘柄選択に努めるべき理由について、アジア・クレジット・ヘッド(除く日本)のフィオナ・チャンが考察します。

金融緩和と投資家の旺盛な需要が2019年のアジア債券のパフォーマンスを牽引

2019年のアジア社債市場は良好なマクロ経済要因を背景に上昇し、信用スプレッドは縮小しました。

  • 「低金利の長期化」が続く世界の金利環境:米連邦準備制度理事会(FRB)は2019年を通じて徐々にハト派的姿勢を強め、欧州中央銀行(ECB)も量的金融緩和を再開したことから、債券価格は大幅に上昇しました。米国債は不安定な値動きとなり、2019年末に向けて10年物米国債利回りは大幅に低下しました 。
  • 膨らんだ資本流入:多くの先進国の債券利回りは相対的に低いかマイナスで 、投資家はエマージング市場により高いリターンを求めるようになっています。アジアは資本流入増加の恩恵を最も大きく受け、特に社債発行がその受け皿となっています。
  • 金融緩和の強化:世界的な利回り低下、インフレ圧力の後退、世界経済の成長鈍化を背景に、アジアでは多くの中央銀行が積極的に利下げを行いました。最も積極的な動きを示したのはインド、インドネシア、フィリピンで、インドネシアとフィリピンの2カ国は貸出水準を高めるため利下げと銀行の預金準備率引き下げに踏み切りました。

アジア社債:健全なファンダメンタルズと成長格差の拡大が2020年の鍵

2020年は先進国経済の低迷が続く一方で、アジア経済はインフレ圧力が弱まり、比較的堅調に推移すると見られます 。また、2018年以降、積極的な金融緩和の動きが広がったものの、インドネシアやインドなどには景気浮揚のために追加緩和を講じる余地があります。サプライ・チェーンの製造拠点が中国からその他のアジア諸国等へ移転している点も、アジア市場のプラス材料になると思われます。米中貿易摩擦が著しく悪化しないという当チームの基本ケースシナリオを前提とすれば、アジアとその他地域との成長格差が引き続きアジア社債市場を下支えすると思われます。

供給面では、起債額は若干増加する一方、償還は少ない見込みで、市場を下支えすると思われます 。アジアに拠点を置く機関投資家のアジア社債(特にハイイールド債)への需要は2020年も引き続き増加する見通しで 、安定した「ホーム・ベース」として市場のボラティリティが上昇する局面でも価格を下支えすると思われます。アジア地域のデフォルト率は、クレジットのクオリティを示す遅行指標であり、世界経済の減速を追う形で徐々に上昇することが予想されます 。そのため、特に銘柄固有のリスクが高まる局面においては、銘柄選択とボトムアップ・リサーチが重要であると考えます。

以上の要因から、アジア社債市場はその他市場との成長格差の拡大に伴い、2020年は一段の上昇を示すと当チームでは予想しています。インドネシアに関しては、不動産や石炭採掘といった主要セクターでクオリティの高い社債をポジティブに見ています。インドについては、鉄鋼や再生可能エネルギーといったセクターに魅力的な利回りと安定したクレジット状況を見込んでいます。

中国の社債:リスクがある中、投資機会も

中国経済は2020年も貿易摩擦の逆風を受ける可能性があるものの、当チームでは5.5%~6%の経済成長を予想しています。中国政府は的を絞った財政政策と金融緩和により経済の下支えを継続すると見られますが、市場の流動性は潤沢で、インフレ圧力も生じつつあることから、2008~2009年のような本格的な信用拡大を実施することはないと見ています。経済面の課題と資金流出圧力を背景に、人民元は2020年も閾値とする1ドル=7元を超えて下落すると見られます。

中国市場全体のファンダメンタルズについては、パフォーマンスはやや低下する可能性があるものの、クレジットの状況が著しく悪化することはないと見ています。当チームは、融資と財政政策を通じた政府による継続的な下支えの恩恵を受ける、戦略的重要性の高い国有企業(SOE)と地方政府の資金調達事業体である「融資平台(Local Government Financing Vehicles:LGFV)」の社債に投資妙味があると考えています。具体的には有料道路運営会社、鉄道会社、あるいは国家レベルの戦略的プロジェクトに参画している企業などです。

ハイイールド債市場の発行額のかなりの割合を占め、GDPに占める比率も高い不動産セクターのほか、銀行セクターもポジティブに見ています。報告されている銀行の不良債権は改善され、自己資本比率は健全な水準を維持しており 、銀行の信用が著しく悪化することはないと考えています。資本財などの景気循環セクターについては、2020年に満期が到来する多額の債券があるため、当チームではやや弱気の見方をしています。とはいえ、このセクターでも、2019年に売られすぎた可能性のある、質の高い銘柄には注目しています。

また、中国社債市場のデフォルトに投資家の注目が集まっています。中国のデフォルトは主に民間セクターに集中していましたが、特に銀行およびLGFVセクターの経営難に陥ったSOEへの中国政府の対応姿勢に顕著な変化が生じています 。中国政府は、規律を引き締め、中国国内の社債投資家のモラル・ハザードを防ぐ手段として、重要性の低い営利企業の破綻を意図的に容認する姿勢を強めると当チームでは考えています。

ESG要因の重要性が高まる

ESGのトピックは目新しいものではありませんが、アジアではその重要性が認識されるようになってきています。当クレジット・チームでは様々な手法によりESGリサーチの充実を図っています。また、マニュライフ・インベストメント・マネジメントは国連の責任投資原則(PRI)に署名しています。

当チームでは、ESGの視点を投資分析と意思決定プロセスに組み込んでいます。銘柄毎に伝統的なリサーチ・財務分析を行うほか、クレジット・アナリストはESG専門のリサーチ・チームと協力してESG要因についての評価・分析を行います。また、ESGインテグレーションの進捗状況を確認するため、アジア債券ポートフォリオのESGタスクフォースを設置しています。アジア地域に堅固な地盤と20名超のクレジット・アナリストから構成されるチームを擁している点は、欧州に注力する競合他社とは一線を画する、マニュライフ・インベストメント・マネジメントの強みとなっています。

ESGの3つの要素(環境・社会・ガバナンス)を把握する上で、アジア地域に10拠点を有することは大きな強みです。ESGの真のリスクは、徹底した現地調査と定量的な評価プロセスを経て初めて特定できるケースが多くあります。こうしたアプローチを通じて、リスクに関する長期的な見通しに基づき「ノッチ」単位での社内格付の引き上げと引き下げが可能になります。

また、2020年前半にはソブリン債についての新たな調査体制をスタートする予定です。これにより、私たちはアジア地域のソブリン債および社債について、特にガバナンス面の評価においてより優位性を発揮することが可能になると考えています。アジア市場は、銘柄保有の集中度が高いことから、企業評価においてガバナンス要因の重要性がますます高まると考えています。

  1. JACI Investment gradeインデックスは10.85%上昇し、スプレッドは28.6 bps縮小しました。JACI HYインデックスは11.61%上昇し、スプレッドは38.9 bps縮小しました。2019年12月5日時点。
  2. 2019年初来の新規発行額は2,650億米ドルで、2007年以降、2番目に多い発行額となりました。JPモルガン、2019年11月時点。
  3. 2019年11月29日時点、米国債10年物の利回りは1.77%で、2018年12月31日時点は2.69%です。
  4. マイナス金利の債券の残高合計は約11兆5,000億米ドルで、債券発行残高の20%を占めています。フィナンシャル・タイムズ、2019年11月19日時点。
  5. 国際通貨基金のGlobal Outlook、2019年10月時点。
  6. 2019年(年初来2019年10月31日まで)の発行額は2,650億米ドルで、投資適格債が1,520億米ドル、ハイイールド債が1,090億米ドル。JPモルガン、2019年11月時点。償還額は約1,900億米ドルで、2020年もほぼ同等額が償還される見通し。バークレイズ、2019年10月時点。
  7. 投資家種別では、2019年のハイイールド債新規発行分のうち保険/年金に配分される比率は平均65%(2018年は48%)。JPモルガン、2019年11月時点。
  8. ムーディーズによると、2019年7月末現在、アジアの過去12カ月間の非金融企業ハイイールド社債のデフォルト率は1.8%で、2018年末の2.9%から低下しています。ムーディーズは、過去12カ月間のデフォルト率は2020年1月に0.8%の底をつけた後、次第に上昇し、2020年6月に1.6%に達すると予想しています。
  9. マニュライフ・インベストメント・マネジメント、2019年11月。
  10. Baoshang BankとBank of Jinzhouの両行に対し、政府は救済措置を行わず、実質的に破綻を容認しました。2019年11月には天津物産集団の事実上の債務不履行が国内で20年ぶりの事実上の債務不履行となりました。また、12月には、政府の強力な支援を受けている企業とみなされていた北大方正集団が、中国国内の債権者への返済を期日通りに履行できませんでした。
  • 本資料は、海外グループ会社の情報を基にマニュライフ・アセット・マネジメント株式会社(以下「当社」といいます。)が作成した情報提供資料です。
  • 参考として掲載している個別銘柄を含め、当社が特定の有価証券等の取得勧誘または売買推奨を行うものではありません。
  • 本資料は、信頼できると判断した情報に基づいておりますが、当社がその正確性、完全性を保証するものではありません。
  • 本資料の記載内容は作成時点のものであり、将来予告なく変更される場合があります。
  • 本資料のいかなる内容も将来の運用成果等を示唆または保証するものではありません。
  • 本資料に記載された見解・見通し・運用方針は作成時点における当社の見解等であり、将来の経済・市場環境の変動等を示唆・保証するものではありません。
  • 本資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、その開発元または公表元に帰属します。
  • 本資料の一部または全部について当社の事前許可なく転用・複製その他一切の行為を行うことを禁止させていただきます。

商号: マニュライフ・アセット・マネジメント株式会社

登録番号: 関東財務局長(金商)第433 号

加入協会: 一般社団法人 投資信託協会 一般社団法人 日本投資顧問業協会 一般社団法人 第二種金融商品取引業協会

※マニュライフ・インベストメント・マネジメントは、マニュライフ・ファイナンシャル・コーポレーションにおける資産運用ビジネス部門の新しいグローバル・ブランドであり、従来のブランド名であるマニュライフ・アセット・マネジメントから変更しております。また、各国拠点の社名についても順次変更を行っております。

投資には、元本割れなどのリスクが伴います。金融市場は変動しやすく、企業、産業、政治、規制、市場又は経済の変化に応じて乱高下することがあります。エマージング市場での投資に関しては、これらのリスクはより大きくなります。為替リスクとは、為替レートの変動がポートフォリオの投資の価値に悪影響を及ぼすことがあるというリスクです。

掲載されている情報は、特定の人に係る適合性、投資目的、経済状態又は特定のニーズを考慮したものではありません。お客様自身の状況にどのような種類の投資が適しているかどうかを検討し、必要に応じて専門的アドバイスを求めることをお勧めします。

本資料は、利用者に関係する法域に適用される法令等に基づき受領を許可された者のみの利用に供することを目的として、マニュライフ・インベストメント・マネジメントが作成したものです。本資料に掲載された見解は、公表時におけるマニュライフ・インベストメント・マネジメントの見解であり、市場環境その他の状況に基づき変更される場合があります。本資料に掲載されている情報及び/又は分析は、信頼性があると思われる情報源から入手したものですが、マニュライフ・インベストメント・マネジメントは、当該情報及び/又は分析の精度、正確性、実用性又は完全性について何らの表明も行わず、当該情報及び/又は分析を使用したことによる損害について一切責任を負いません。本資料の情報には、将来の事象、目標、運用哲学その他の予想に関する予測や見通しについての記述が含まれていることがありますが、いずれの情報も表示されている日付時点での最新の内容です。本資料における情報(金融市場の動向に関する説明など)は現在の市況に基づいていますが、現在の市況は今後の市場での出来事その他の理由によって変動し、置き換えられる可能性があります。マニュライフ・インベストメント・マネジメントは、かかる情報を更新するいかなる責任も負いません。

マニュライフ・インベストメント・マネジメント若しくはその関連会社、又はマニュライフ・インベストメント・マネジメント若しくはその関連会社の取締役、執行役若しくは従業員のいずれも、本資料の情報を信頼して行動し又は行動しなかった人が直接又は間接的に被った損失、損害その他の結果に関する責任を負うものではありません。全ての見解及び解説は、一般的な性質を有するように意図されており、現時点の関心事に資するためのものです。これらの見解は有用であると考えていますが、税務、投資又は法務に関する専門的アドバイスに代わるものではありません。お客様固有の事情につきましては、お客様自身が適切な専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。マニュライフ若しくはマニュライフ・インベストメント・マネジメント又はマニュライフ若しくはマニュライフ・インベストメント・マネジメントの関連会社若しくは代表者のいずれも、税務、投資又は法務に関するアドバイスを提供するものではありません。過去の実績は将来の結果を保証するものではありません。本資料は、もっぱら情報提供を目的として作成されており、有価証券の売買又は投資戦略の採用につき、マニュライフ・インベストメント・マネジメント又はその代理人が推奨したり、専門的アドバイスを提供したり、申込み又は勧誘したりするものではありません。また、マニュライフ・インベストメント・マネジメントが管理するファンド又は口座における取引の意図を示すものでもありません。いかなる市場環境においてもリターンを保証し又はリスクを排除する投資戦略又はリスク管理手法はありません。分散投資又はアセット・アロケーションによって、いかなる市場においても、利益が保証されることはなく、損失から保護されることもありません。別途示している場合を除き、全てのデータの出所はマニュライフ・インベストメント・マネジメントです。

マニュライフ・インベストメント・マネジメントについて

マニュライフ・インベストメント・マネジメントは、Manulife Financial Corporationのグローバルな資産運用ビジネス部門です。私たちは150年超にわたり、スチュワードシップ責任に則って、年金基金、機関投資家、個人投資家の皆さまに包括的な資産運用ソリューションをご提供しています。資産運用における私たちの専門的なアプローチには、債券、株式、マルチアセット及びプライベート・アセットの各運用チームが提供する高度に差別化された戦略があり、それらに加えて、私たちのマルチマネジャー・モデルを通じて特色ある独立系資産運用会社の戦略へのアクセスも可能です。

これらの資料は、有価証券その他の規制当局に審査及び登録されていませんが、以下のマニュライフ・グループの会社がそれぞれの法域で適宜配布することもあります。マニュライフ・インベストメント・マネジメントに関する追加情報については、次のURLに掲載されています。www.manulifeim.com/institutional

オーストラリア: Hancock Natural Resource Group Australasia Pty Limited, Manulife Investment Management (Hong Kong) Limited. ブラジル: Hancock Asset Management Brasil Ltda. カナダ: Manulife Investment Management Limited, Manulife Investment Management Distributors Inc., Manulife Investment Management (North America) Limited, Manulife Investment Management Private Markets (Canada) Corp. 中国: Manulife Overseas Investment Fund Management (Shanghai) Limited Company. 欧州経済領域(EEA)及び英国: Financial Conduct Authority (FCA) 規制下にあるManulife Investment Management (Europe) Limited、アイルランド中央銀行の規制下にあるManulife Investment Management (Ireland) Limited 香港特別行政区: Manulife Investment Management (Hong Kong) Limited. インドネシア: PT Manulife Aset Manajemen Indonesia. 日本:マニュライフ・アセット・マネジメント株式会社 マレーシア: Manulife Investment Management (M) Berhad(旧Manulife Asset Management Services Berhad)登録番号:200801033087 (834424-U) フィリピン: Manulife Asset Management and Trust Corporation. シンガポール: Manulife Investment Management (Singapore) Pte. Ltd.(会社登記番号:200709952G スイス: Manulife IM (Switzerland) LLC. 台湾: Manulife Investment Management (Taiwan) Co. Ltd. タイ: Manulife Asset Management (Thailand) Company Limited. 米国: John Hancock Investment Management LLC, Manulife Investment Management (US) LLC, Hancock Capital Investment Management, LLC and Hancock Natural Resource Group, Inc. ベトナム: Manulife Investment Fund Management (Vietnam) Company Limited.