2020 アウトルック・シリーズ:アジア債券

アンドレ・ペダーセン
アジア債券部門(除く日本)チーフ・インベストメント・オフィサー

アジア債券市場は昨年、投資適格債、ハイイールド債のいずれも高いリターンを記録しました。本稿では、アジア債券部門(除く日本)チーフ・インベストメント・オフィサーのアンドレ・ペダーセンが、アジア債券市場の金利、クレジット、通貨の2020年見通しについて概説します。

良好なマクロ経済要因を背景に堅調な推移を示した2019年

私たちは、昨年2019年初めの年間見通しで、アジア債券を左右する重要なマクロ要因として 1) 米連邦準備制度理事会の金融政策、2) 米中貿易交渉の2つを挙げました。

1) 米連邦準備制度理事会の政策: 米連邦準備制度理事会(FRB)が金融引き締めから金融緩和へと舵を切ったことを受けて、2019年の米国債利回りは不安定な動きとなり、10年物国債利回りは年初から130ベーシスポイント以上低下しました1。アジア各国の中央銀行もFRBと足並みをそろえて金融緩和に踏み切りました。信用スプレッドの縮小に加え、先進国におけるマイナス金利の債券の増加がアジア地域への資本流入を後押ししました。 

2) 米中貿易関係: 2019年は、一進一退を繰り返す米中貿易交渉が投資家センチメントと世界経済の成長見通しに影響を及ぼし続けました。私たちは引き続き貿易問題の進捗を慎重に見守りますが、この要因がクオリティの高いアジア社債に与える影響は株式への影響よりも少ないと考えています。インドネシアやインドなど、個人消費が堅調な国は輸出依存型の国をアウトパフォームすると見ています。 

全体的に2019年のアジア債券市場はこうした環境の下で堅調な展開となり、投資適格債とハイイールド債のいずれとも高いリターンを示しました2。  

先行きの不透明感が高まる中、2020年は良好なファンダメンタルズがパフォーマンスを牽引

アジアは2020年も健全なファンダメンタルズを維持すると予想しています。アジアは今後2年間に先進国とエマージング諸国の中で最も高いGDP成長率を達成すると思われます3。また、重要な点として、アジアは金融・財政面の刺激策が引き続き実施可能な数少ない地域であるという点が挙げられます。アジア市場は概して先進国市場と比べて金利が高いため、財政政策を実施する前に効果的な金融緩和政策を実施する余地があります。

全体的に見て、アジア債券は今年も引き続き良好なマクロ経済環境の恩恵をその他市場以上に受けると見ています。しかし、世界経済は減速傾向にあることから、投資家はこれまで以上にリスクに注意する必要があります。以下、1) 金利、2) 社債、3) 通貨の3つのカテゴリーごとにアジア債券の投資機会について概説します。

金利:
アジアを含めグローバルに継続する金融緩和   

昨年見られた世界的な金融緩和は今年も続くと当チームでは考えています。FRBは安定的に緩和傾向を維持すると見られ、米国債利回りはこうした金融政策を背景に低水準で推移すると思われます。私たちは、デュレーション(金利感応度)に関しては、2019年よりも長めを選好し、国債利回りの低下により見込まれるリターンの獲得を目指します。

中国、マレーシア、インドネシアの金利市場にポジティブな見方

アジア諸国の経済は輸出型から内需主導型まで多様性に富んでおり、そのことが債券投資家に魅力的な投資機会をもたらすと思われます。

  • 中国経済の動向を慎重に見守る動きが続くと思われます。私たちの基本シナリオでは、インフレ圧力(主に食品価格の上昇に伴うもの)が一時的に生じる中で経済成長は安定化すると予想しています。政府は対象を絞った財政・金融政策を実施すると見られますが、サプライ・チェーンの「中国本土化」により4 、政策はアジア経済より中国国内の経済を下支えすると思われます。より長期的に見ると、2020年は中国債券市場の発展における節目の1つとなる可能性があります。2019年に中国債券がブルームバーグとJ.P.モルガンの債券指数に組み入れられたことを受けて、2020年にはさらに多くのグローバル指数が中国債券の組み入れを検討する可能性があり、資金流入の増加に繋がることが考えられます。

また、投資家は中国以外にも、特に東南アジアなど様々な国を投資対象とすることが可能です。アジアの内需主導型の国の現地通貨建て債券市場は、健全なファンダメンタルズと魅力的な実質利回りの点で際立っていると当チームでは考えています。

  • インドネシア債券への投資機会については、利回りが相対的に魅力的である(国際的な格付機関による「BBB」格付の10年物国債の利回りは約7%)という点で強気の見方を維持します。債券投資家はすでに、ジョコ・ウィドド大統領の再選と同大統領の意欲的な改革政策、および2019年のインドネシア銀行(BI)による4回の利下げの恩恵を受けています。BIは、FRBの金融緩和政策と緩やかなインフレ圧力を背景に、今年も追加利下げを行う余地があります。
  • マレーシアについてもポジティブに見ています。マレーシアは昨年、他の市場ほどには積極的な動きを取らず、年初に1回のみ利下げを実施しました。内需主導型の経済成長であることに加え、インフレ率がアジア域内で最低水準にあることが、他の市場を上回る実質利回りをもたらすと予想しています。また、同市場には今年利下げの余地があると見ています。

社債:
アジア債券市場における投資機会

世界的に緩和的なマクロ経済環境は、クオリティの高いアジア社債を引き続き下支えすると思われます。さらに、投資適格債についてはリファイナンスへの懸念は少なく、信用スプレッドの縮小継続を見込んでいます。中国国有企業(インフラストラクチャー、公益企業など)と準ソブリン債発行体(政策銀行など)は貿易交渉の影響をそれほど大きく受けないため、2019年における中国の投資適格社債のスプレッド拡大は限定的なものでした。私たちは、融資と財政政策を通じた政府による継続的な下支えの恩恵を受ける、戦略的重要性の高い国有企業と地方政府の資金調達事業体である融資平台(LGFV)の社債に投資妙味があると考えています。具体的には有料道路運営会社、鉄道会社、あるいは国家レベルの戦略的プロジェクトに参画している企業などです。

私たちは、インドの社債について、ファンダメンタルズの観点からは強気の見方をしていますが、バリュエーションの観点ではそれほど魅力的な水準ではないと考えています。2019年のインド経済は徐々に減速し、インフレ率は全般に抑制されたため、インド準備銀行は積極的に利下げを行いました。しかし、ノンバンク金融セクターで相次いだ債務不履行の影響は社債市場のみにとどまらず、金融緩和策が講じられたにもかかわらず、市場の流動性に対しても影響が波及しました。こうした課題はあるものの、先日の最高裁判所の判決により、有担保債権者の請求権が無担保債権者の請求権に優先することが確認されたことは投資家にとって好ましい進展であると捉えています6。今年はバリュエーションの観点から、インド社債への投資機会を待つ方針です。

私たちは2020年もアジア地域のハイイールド債、特に短期債に対しては引き続き強気な見方をしています。ただし、ハイイールド債は投資家にとって利回りの観点からも引き続き魅力的ではありますが、2019年と比較しリスクは上昇していると考えています。私たちの考えるリスクとしては、ハイイールド債のうち2020年に満期を迎える債券が多くを占めていること、特に中国の非公開中小企業の債務不履行が若干増加する可能性があることなどが挙げられます。中国政府はより対象を絞った財政政策を実施しており、比較的小規模な金融機関の流動性が逼迫していることから、中国の限界企業(営業利益が負債の利子費用に満たない企業)のリスクは悪化しています。そのため、社債について厳密なリサーチに基づく銘柄選択を行うことが、魅力的なリスク調整後リターンの獲得につながると考えています。

通貨

米中貿易交渉や米国大統領選挙、グローバル経済の回復兆候など、アジア通貨の動向を左右すると思われる外部要因を注視しています。私たちは、為替リスク抑制のため、米ドル建てアジア債券と現地通貨建てアジア債券のバランスを考慮し、引き続き幅広いアジア債券のエクスポージャーを取る方針です。輸出主導型の国の通貨については、ボラティリティの高い展開を予想しています。理由は、外部要因の多くについて、先行きがまだ不透明であり、それに伴う経済への影響も依然として見通しが立たない状況であるためです。貿易摩擦の影響を踏まえ、対米ドルで中国人民元にはやや慎重な姿勢を取ります。現地通貨については、魅力的な実質利回りをもたらし、経済のファンダメンタルズが健全な国の通貨を強気に見ています。ファンダメンタルズが健全であれば、外部要因の変化による影響は軽減され、安定した経済成長や通貨変動が見込まれます。こうした観点から、インドネシア・ルピアは他のアジア通貨に比べて有望であると思われます。

持続可能で柔軟なアジア債券投資の時代に備える 

私たちは、アジア最大級のクレジット・リサーチ・チームを擁しています。クレジット・アナリストは銘柄毎に伝統的なリサーチ・財務分析を行うほか、ESG専門のリサーチ・チームと協力してESG要因についての評価・分析を行います。またESGインテグレーションの進捗状況を確認するため、アジア債券ポートフォリオのESG専門タスクフォースを設置しています。アジア債券戦略では、スクリーニングとダウンサイド・リスクの定量化という堅固なプロセスを通じて、ESG要因を考慮・検討しています。 

アジア債券市場は17市場14セクターにわたり、多様化と複雑化が進んでいます8 。つまり、現地に根差した情報を有するチームの存在が、かつてないほど重要な意味を持つようになっています。私たちは、アジア地域に10拠点、50名以上の債券運用プロフェッショナルを有しています9。さらに市場規模18兆米ドルのアジア債券市場全体にフレキシブルに投資を行う「全方位(go anywhere)」アプローチを採用しています10。こうした方針により、イベント・リスクの最小化、分散投資、フレキシビリティの高さという三つの大きなメリットの実現が可能となっています。 

  1. 米国財務省、2019年12月2日時点。2019年1月18日の10年物国債利回りは2.79%、2019年8月28日は1.47%。
  2. JACI investment gradeは10.73%上昇し、JACI high-yieldは11.58%上昇、2019年12月6日時点。
  3. 国際通貨基金世界経済見通し、2019年10月。アジアのエマージング諸国および発展途上国の実質GDP成長率予想は6%で、先進国は1.7%、欧州のエマージング諸国および発展途上国は2.5%、ラテンアメリカおよびカリブ海諸国は1.8%。
  4. 輸入代替は、サプライ・チェーンを現地化するため、海外輸入業者の代わりに国内のサプライヤーを採用する政策。
  5. 出所:マニュライフ・インベストメント・マネジメント、ブルームバーグ。2019年9月30日時点におけるS&P、ムーディーズ、フィッチによる国債格付(中央値)。インフレ率は消費者物価指数の前年比伸び率。
  6. Euromoney: “India reverses course on Essar Steel decision”、 2019年11月15日
  7. JPモルガン、ブルームバーグ、2019年11月29日現在。過去の運用実績は将来の成果を示唆するものではありません。
  8. JPモルガン・アジア・クレジット・インデックス、2019年9月
  9. マニュライフ・インベストメント・マネジメント、2019年6月
  10. アジア開発銀行、マニュライフ・インベストメント・マネジメント、2019年6月
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