アジア債券:ファンダメンタルズに注目

アンドレ・ペダーセン
アジア債券部門(除く日本)チーフ・インベストメント・オフィサー

 

新型コロナウイルス感染拡大に伴う世界経済の停滞懸念は、最近の原油価格の急落とともに、グローバル金融市場のボラティリティ(価格変動性)をさらに高める要因となりました。当レポートでは、アジア債券チームを率いるアンドレ・ペダーセンが、市場混乱によって生じたアジア債券の投資機会について考察し、アジア債券に投資する意義についてご説明します。

アジア債券:市場混乱に惑わされることなく、ファンダメンタルズに注目 

市場混乱時においては、経済や企業のファンダメンタルズに関係なくリスク回避のための流動性確保の動きが加速する傾向にあります。アジア債券市場においても今回の市場混乱によって、想定以上のスプレッドの拡大やアジア通貨の下落が見られます。 

アジア社債

先進国とは異なるアジアの社債市場(特に投資適格社債)は、以下の3つの特性によって、新型コロナウイルスの感染拡大による難局を相対的に切り抜けやすい状況にあると考えます。まず第1の特性は、JPモルガン・アジア・クレジット・インデックス(JACI)の約39%は、政府系または国有企業で構成されていることです1。アジアの国有企業(SOEs)は、特に経済基盤として重要とみなされるセクター(石油開発企業や公益企業など)には、政府の支援が期待できます。第2の特性は、多くのアジア企業が現地通貨建て債券を発行する手段を有していることです。このことは、自国の金融 緩和政策の恩恵を受けることができると考えられ、資本市場において多様な資金調達手段があり、米ドル建て債券の発行に過度に依存していないことも意味しています。第3の特性は、現地に根ざしたアジア企業は、強固で安定的な投資家基盤を有していることです。

現在、アジア社債のバリュエーションは、魅力的な水準にあると考えます。2020年3月31日現在、JACI投資適格社債指数の信用スプレッドは、303ベーシス・ポイント(bps)に拡大しており、これは2011年から2012年にかけて発生した欧州債務危機以来の高水準で、過去10年間(2010年3月末~2020年3月末)の平均値222bpsを大幅に上回っています2。とりわけ、アジア投資適格社債の中でも東南アジア地域の一部のSOEsは、市場のボラティリティが高まる中、海外投資家の質への逃避の動きにさらされ、相対的に魅力が増していると考えます。景気減速に対する政府の支援という要素は、投資家には十分に考慮されていないと見ています。

アジア各国の中央銀行が講じた金融緩和政策は、システミック・リスクの発生を防止することに 役立つと考えていますが、すべての企業が恩恵を受けるわけではありません。そのため、アジア・ハイイールド社債については、選別を強化しています。現在の景気減速と原油価格の下落は、ファンダメンタルズの脆弱な企業の間でデフォルト率の上昇を引き起こす可能性があると考えます。 私たちは、民間の中小企業、支払いが遅延している国有企業、および財務体質が脆弱な地方政府の資金調達会社が最もデフォルトに陥りやすいと見ています(これらについては、2019年以降、投資ユニバースから除外してきました)。現在、アジア・ハイイールド社債(JACI非投資適格社債指数)の最終利回りは10%~11%程度となっており、2011年以来の高水準です2。アジア・ハイイールド社債においても、慎重な銘柄選択により、魅力的なリターンを獲得することができると考えます。 

ただし、中央政府は、デフォルト率の急激な上昇を防ぐため、銀行の預金準備率の引き下げや市場への資金供給オペなどの措置を講じると見ています。これらの動きは、少なくとも短期的には市場の安定を確保し、信頼を回復することに役立ちます。また、サービス・セクター低迷による影響を軽減し景気をテコ入れするため、戦略的重要性の高いSOEやLGFVを下支えする更なる財政政策や資金供給が講じられる可能性が高いと考えています。 

セクター別では、マカオへの旅行者数が急減していることから、マカオのカジノ関連セクターは短期的な下落に見舞われると思われます。一方、春節の時期は例年、不動産売買が低調な時期であり、不動産開発企業については比較的堅調に推移すると考えています。また、繰延需要があるため、新型コロナウイルスの動向が当チームの基本シナリオに沿って展開する場合、不動産開発企業は今年後半には再び勢いを取り戻すと当チームでは予想しています。

また、金融セクターへの影響は相対的に限定されるであろうと考えています。理由は、ホテル、レストランおよび小売セクターなど新型コロナウイルス流行の影響を受けやすい景気循環型企業への融資は限定的であるからです。さらに銀行セクターは、SARSが流行した2003年と比べて自己資本比率が高いため、不良債権の増大に対する備えはあると考えられます。  

アジア通貨

アジア通貨は、新型コロナウイルスの感染拡大によってアジア社債ほどではないものの、影響を受けていると考えます。インドネシアを例にとってみると、インドネシア・ルピアは、1米ドル当たり16,000ルピア超と、1997年のアジア通貨危機時に近い水準で取引されています。

これは、主に同国では海外投資家の割合が相対的に大きく(現地通貨建てインドネシア国債の約39%は海外投資家が保有)3、世界的にボラティリティが高まる局面においては、資金が国外に流出しやすいためです。しかし、インドネシア経済のファンダメンタルズは、信用格付けに見られるように、徐々に改善してきています。同国の信用 格付けは、主要格付機関において1997年の非投資適格から現在の投資適格まで段階的に引き上げられてきました2。加えて、同国の政情は安定しており、外貨準備高も1997年の180億米ドルから2020年2月時点の1,300億米ドルまで増加しています2

通貨下落後の現在の水準は、魅力的な利回り (インドネシアの10年物国債利回りは約8%2と、アジアの投資適格国債のなかで最も高い2)とともに、トータル・リターンの観点からインドネシア債券を魅力的にしています。

同時に、私たちは米連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和プログラムの変更や11月の米大統領選挙など、アジア通貨市場に影響を及ぼす可能性の高い外的要因にも注視しています。

アジア金利

アジア金利は社債や通貨と比べると相対的に安定しています。アジアの大半の現地通貨建て国債市場では、リスク回避資金の流入が見られ、利回りが年初来で低下しています(インドネシア、フィリピン、マレーシアを除く)2。 
インドの現地通貨建て国債は、魅力が高まったと見ています。インドのインフレ率は、1月に前年同期比で+7.59%まで上昇しましたが、ピークをつけたと思われます。インフレが加速した主な要因は、食品価格の上昇であり、それは一時的なものと予想されます。さらに、インドは、原油の純輸入国であるため、原油価格の下落は貿易収支の改善やインフレ率の低下に繋がり、相対的に経済を下支えする要因になると考えられます。インフレ懸念が後退する中、インド準備銀行(中央銀行)は、金融緩和政策の余地が大きいと言えます(インフレ率の上昇を理由に2019年10月から2020年2月まで政策金利を据え置きとしてきましたが、2020年3月27日に利下げを再開しました2)。

アジア債券は、アジア経済の多様性を背景に、投資家にとって分散メリットがあると考えます。例えば、中国のオンショア債券市場については、リスク回避資金の流入、追加的な金融緩和策への期待、グローバルおよび地域の債券指数への組入比率の拡大などを要因として、米ドルベースのトータル・リターンが年初来でプラス(元安を上回るインカムと債券価格の上昇)となっています4。今後、金融市場が落ち着けば、相対的に利回りの高い現地通貨および外貨建てアジア債券に再び 注目が集まることになるでしょう。また、中期的には新型コロナウイルス感染がアジアで終息の兆しを見せれば、市場の流動性が回復することによって、行き過ぎた価格下落も修正されると考えます。

  1. JPモルガン・アジア・クレジット・インデックス、2020年3月末現在
  2. ブルームバーグ、2020年3月末現在
  3. asianbondonline.abd.org、2019年12月現在
  4. Markit iBoxx ALBI中国オンショア指数の年初来のパフォーマンス
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