中国債券に投資する理由:インフレ上昇に対するヘッジ

ポーラ・チャン
シニア・ポートフォリオ・マネージャー
アジア債券(除く日本)

世界的にインフレ率が上昇傾向となる中、投資家は、実質リターンの目減りに対するヘッジを求めています。本稿では、ポーラ・チャン(アジア債券担当シニア・ポートフォリオ・マネージャー)とアイザック・メン(同ポートフォリオ・マネージャー)が、主な見解を述べると共に、中国国債と人民元が米国のインフレに対するヘッジになりうると考える理由を解説します。

一般に、米国のインフレ圧力は人民元の下押し圧力になりうると考えられています。歴史的に、米国のインフレ圧力が高まると、米連邦準備制度理事会(FRB)が金融政策を引き締め、投資家のインフレ懸念を受けて、米国債利回りが上昇することが背景にあります。その結果、米国債利回りが上昇する一方で中国の金利は安定的に推移するため、米国債利回りに対する中国の金利の優位性は縮小します。中国の相対的に高い債券利回りは、世界の投資家が中国債券に投資する主な要因の1つであり、人民元相場を押し上げる要因でもあります。したがって、利回り格差が縮小すれば、投資家が中国債券から資金を引き揚げ、人民元が対米ドルで下落すると考えられています。

上記の予想とは裏腹に、私たちは、米国のインフレ圧力が必ずしも人民元の下落につながらないことを認識しています。現に、以下の2つの図は、人民元が、米国の5年ブレークイーブン金利(市場が予想する米国のインフレ率を示す指標)で表した米国のインフレ圧力に沿った動きをしていることを示しています(図1)。一方で、人民元は、事後ベースで見ると、米国のCPIにも沿った動きをしています(図2)。いずれの図からも、これらの期間中、米国のインフレ率が上昇すると、人民元は米ドルに対して上昇したことが分かります。

 

図1:米国のインフレ期待(米国の5年ブレークイーブン金利)が上昇すると人民元は米ドルに対して上昇
Chart mapping the U.S. five-year break-even rate against the U.S. dollar/Chinese renminbi pair during the five-year period ending on November 30, 2021. The chart shows that there’s a strong direct correlation between the two sets of indicators.

ブルームバーグ、2021年11月30日現在

 

図2:米国のインフレ圧力(CPI)が高まると人民元は米ドルに対して上昇
Chart mapping the U.S. Consumer Price Index against the U.S. dollar/renminbi currency pair in the last five years, ending October 31, 2021. The chart shows that there’s a discernible direct correlation between the two indicators.

ブルームバーグ、2021年10月31日現在

この点を考慮すると、中国のオンショア債券(および人民元)がプラス利回りをもたらし、かつインフレ圧力に対するヘッジとなりうるという考えは、理に適っているように思われます。その理由は以下のとおりです。

1 米国の高いインフレ率は、米国の全体的に拡張的な経済政策スタンスを反映したもの  

世界的なパンデミックへの対策として、FRBはハト派的な政策を取っており、テーパリング(量的緩和の縮小)を開始しているにもかかわらず、2022年第1四半期もバランスシートの拡張を続けています。市場は2022年に大幅な利上げを織り込んでいるとは言え、CPIが5%を上回る場合、米国の実質金利はマイナス圏で推移すると見られます。

2 米国のインフレは一時的ではない可能性がある

私たちは、米国のインフレ率の上昇は、一時的な供給ショックを反映した一時的なものに留まらない可能性があると考えています。むしろ、インフレ率の上昇は、米国の需要と消費が拡大した結果である可能性が高いと思われます。米国における消費と輸入の拡大は、中国の貿易黒字を拡大させ、人民元相場を押し上げる要因となります。

3 米国のインフレ率は中国を上回っている

足元の米国のインフレ率は中国のインフレ率を上回っていることから、人民元(実質ベース)の価値はフェアバリューに近いと思われます。一方で、実質実効為替レート(REER)で見ると、米国のインフレ率の高さから、米ドルは人民元よりも過大評価されている可能性が高いと思われます。REERは、ある通貨の、主要貿易相手国の通貨に対するインフレ調整後の価値を示す尺度です。

4 市場は「リスクオン」モードにある

ブレークイーブン金利が上昇し、実質利回りが低水準またはマイナスの市場環境は、一般的に「リスクオン」モードと関連があります。つまり、このような環境下では、世界の投資家は米国債から資金を引き揚げ、よりリスクの高い資産クラスに資金を割り当てる傾向にあります。したがって、この点に基づけば、人民元建て資産への資金配分は拡大することが予想されます。

 

図3:中国債券(ヘッジなし)と米物価連動国債の5年間のリターン
Chart comparing the returns of the following indexes in the last 10 years (ending November 30, 2021): The Bloomberg U.S. Treasury Total Return Index, the Bloomberg U.S. Treasury Inflation-Linked Bond Index, and the Bloomberg Global Aggregate China Total Return Index (Unhedged, in U.S. dollars). The chart shows that the Bloomberg Global Aggregate China Total Return Index returned the most of the three indexes during the period, followed by the Bloomberg U.S. Treasury Inflation Linked Index.

ブルームバーグ、2021年11月30日現在

インフレ率は過去12ヶ月間で上昇しましたが、この間、米物価連動国債は一般の米国債をアウトパフォームしてきました。同様にこの間、中国債券(ヘッジなし)は好調に推移し、米物価連動国債と歩調を合わせて上昇してきました。このことは、中国債券は米国のインフレに対するヘッジを投資家に提供しうるという私たちの主張を裏付けるものです。

まとめ

本稿では、私たちの主な見解をいくつか紹介すると共に、中国国債および人民元が米国のインフレに対するヘッジになりうると考える理由を解説しました。中国債券は、名目利回りと実質利回りが相対的に高く、また他の資産との相関が相対的に低く、分散投資の効果が得られるため、既に魅力的な資産クラスとなっています。しかし、利回りがプラスの資産であること、また世界的なインフレ率の上昇に対するヘッジになりうることから、中国債券の魅力は一層高いと言えます。そのため私たちは、世界の投資家が中国債券をポートフォリオの重要な構成要素として検討する理由は一段と強まったと考えています。

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