中国の2つの政策転換:新型コロナと不動産セクター政策の大きな方向転換

ポーラ・チャン
シニア・ポートフォリオ・マネージャー
アジア債券(除く日本)

アイザック・メン
ポートフォリオ・マネージャー
アジア債券(除く日本)

昨今、中国は新型コロナ関連の規制緩和と、不動産セクターを中心に資金調達を支援する、数多くの政策措置を発表しました。主な措置は以下の通りです。

1 新型コロナ関連の規制修正

中国は11月11日、ゼロコロナ政策を微調整する20の政策措置を発表しました1。7人の委員からなる、中国の最高意思決定機関である中国共産党中央政治局常務委員会の会合で、国の新型コロナ対策の改善を図る政策措置が議論されました。

主な発表内容:

  • 濃厚接触者と入国者の隔離要件を、5日間の集中隔離と3日間の自宅観察に短縮。従来は7日間の集中隔離と3日間の自宅観察(2023年1月に撤廃)。
  • インバウンド国際旅客便のサーキットブレーカー措置(一定の感染者が検出された場合、その路線の運航を一定期間停止とする措置)の廃止。
  • 1日2~3回PCR検査を実施する非科学的アプローチを規制。
  • 学級閉鎖や生産停止、交通規制の実施、恣意的なロックダウンの導入など、今後は地方当局が不必要な制限措置の責任を負う。

「ダイナミックゼロコロナ政策」の基本姿勢は本質的には変わっていないものの、党常務委員会は政府に対し、新型コロナ対策に対するアプローチを、より「科学的で精密な」方法に微調整するよう要請しました2

2 不動産セクターの資金調達支援

11月9日、銀行間市場交易商協会(NAFMII)は、中国人民銀行(PBoC)と共に、2,500億人民元の資金供給ファシリティ(「第二の矢」)により、私募社債による資金調達を支援することを発表しました3。その中には、発行と流通の両市場における不動産デベロッパー債券の購入が含まれています。必要であれば増額の可能性もある2,500億人民元のパッケージは、向こう12か月以内に満期となる、民間デベロッパーの既存のオンショアおよびオフショア債券残高の、およそ3分の1に相当します。不動産セクターの救済資金は総額6,000億人民元にのぼり、同セクターの短期流動性ニーズの必要額に見合う規模となります。

11月21日には、PBoCが、未完成の不動産プロジェクトを確実に完成させるため、2023年3月31日まで、商業銀行6行に対する2,000億人民元の無利子再貸出ローンの実施プランを発表しました。

また、11月23日には、PBoCと銀行保険監督管理委員会(CBIRC)が、不動産セクターの資金調達を支援する16の政策措置を正式に通達しました4。その中心は、住宅セクターの健全な開発と安定を推進するためのデベロッパー向けローンです。それらの政策措置は、以前の断片的な発表とは異なり、デベロッパーの資金調達ニーズを満たすべく、保証付き債券の発行、デベロッパー向けローン、信託ローン、モーゲージ、買収ローンの方針など、より包括的で協調的なアプローチとなっています。

規制当局は金融機関に対し、デベロッパー向けローンや信託ローンの返済期限延長による支援も求めています。今後6カ月のうちに満期を迎えるローンについて、貸し手は返済期間を1年延長するよう要請され、債券の発行体と債券保有者については、債券が償還を迎える前に、返済や満期延長の合意が勧奨されています。また同時に、銀行は買収ローンを活用して、信用力の高いデベロッパーの問題プロジェクトの管理を引き受けるよう推奨されています。さらに、資産の処分を加速させるため、大手および地方の資産管理会社(AMC = asset-management companies)も、デベロッパーや銀行に協力するよう要請を受けています。

中国不動産セクターの見通しはより前向きに

私たちは、最近発表されたゼロコロナ政策の微調整(「20条措置」)と不動産セクターのデベロッパー向けの資金調達プログラム(「16条措置」と「第二の矢」)が、2023年の私たちの基本シナリオの裏付けになると考えています。3月以降にはさらに経済再開が活性化し、不動産販売や投資は底を打ち、2023年を通して内需が中国のGDP成長を支えるだろうと見ています。

最終的な経済再開を示唆するものとして、中国ゼロコロナ政策に対する「20条措置」の微調整は望ましいといえます。これらの措置は、一部少数の都市で既に実施されている様子が見られますが、経済再開の程度と時期は、冬季の新型コロナ感染者数の動向次第でしょう。新型コロナ管理政策は、全体的には依然として厳格なことから、マクロ経済のリバウンドは当面限定的とみられます。一方で、1日の感染者数が、大半は無症状とはいえ、5月以来はじめて20,000人を超え、早くも冬の感染者数拡大の波が見え始めています。

私たちはまた、中国のデベロッパー、特に民間企業(POE)のオンショア債務のリファイナンス・リスクが緩和されることから、「16条措置」「第二の矢」政策、および2,000億人民元再貸出しローンプランの発表もプラスに評価しています。しかしながら、政策決定者が、オンショア債券保有者、住宅購入者、銀行システムなど、オンショアのステークホルダー保護にフォーカスしている点には注意が必要です。オフショア債券保有者は、POEのオンショアの債券やローンなどのリファイナンス・リスク低下により、間接的に恩恵を享受することになるでしょう。とはいえ、これらの措置は、今後12か月から18か月以内で、このセクターの反転要因となり得るでしょう。中国不動産セクターの持続的な回復を見極めるべく、発表されたこれらの措置が有効に実施され、実物市場での販売の回復状況をしっかりとモニタリングしていきます。

最近の政策発表に関して、2023年第2四半期以降の経済再開と最終的な不動産セクター回復につながると見られることから、私たちは総じてプラスに捉えています。とはいえ、今後数四半期は依然として経済活動の停滞が予想され、当面市場のボラティリティは高止まりするでしょう。

政策支援拡大がみられるも、慎重姿勢を維持

私たち中国債券チームは、これらの政策転換に先駆け、中国クレジット市場をより前向きにみられる状況の変化を注視してきました。中国の景気回復をサポートする「貿易再開(The Reopening Trade)」や「全部込みの政策バズーカ(All in Policy Bazooka)」などです(ご参考レポート「中国債券:リスク分散のための 底堅い投資対象」)。

政府による経済成長引上げ努力については、まだ「全部込み」の段階にはないかもしれませんが、中国のクレジット市場にとって、最近の進展は重大で、歓迎すべき軌道修正とみています。今日まででも、保有ポートフォリオ内で不動産に対するエクスポージャーの見直しやトレードにより、戦術的に市場上昇の好機を捉えた投資家もいるかもしれません。ただ、私たちは、年初に向けて、慎重な姿勢は崩さず、クレジット・ベータを現在の水準に保つことは有意義だと考えています。しかし、中国の経済回復がより明らかになり、確度が高まれば、投資家はリスク追加の機会追求がより可能になるでしょう。

不動産のエクスポージャーについては、引き続き慎重な姿勢を維持します。年初には景気回復の見通しも改善するとみられ、政策による支援の拡大は、中国の不動産や、ひいては中国クレジット市場全体にとっても有利になると考えています。2022年、不動産セクターの債券は急落しましたが、現在、政府の資金調達支援策による明確な支持を得たデベロッパーの債券のバリュエーションは魅力的です。このセクターに対するセンチメントは継続的に回復しており、私たちの中国債券戦略のパフォーマンスは、向こう数四半期にわたって、急激に上昇する可能性もあると考えています。

まとめ

マニュライフ・インベストメント・マネジメントでは、最近の進展は政策の方向性の重大な変化を示しており、中国クレジット市場に有利な結果をもたらし得ると考えています。しかしながら、中国の景気回復がより顕著になるまで、年初に向けては慎重な姿勢を維持します。アクティブ運用による中国債券は、今後数四半期、低下よりも上昇の可能性が高いと予想しています。

  1. ブルームバーグ、2022年11月11日
  2. China Daily、2022年11月15日
  3. Global Times、2022年11月9日
  4. CBIRC、2022年11月23日

リスクと手数料については、以下をご覧ください。https://www.manulifeim.com/institutional/jp/ja/jp-risks-and-fees-guide

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