改革が進展する中国の銀行セクター

フィオナ・チャン
アジア・クレジット・ヘッド (除く日本)

2019年5月下旬に、中国の金融監督当局は都市型商業銀行1行を行政管理下に置きました1。多くの市場関係者は、これが1回限りの出来事なのか、それとも、その他の金融機関も同様の事態に直面するのかという疑問を有しています。本稿では、この銀行に関する出来事が金融セクター改革の先行きに与える影響および中国における最新のクレジットの動向について、アジア・クレジット・ヘッド(除く日本)のフィオナ・チャンが考察します。

金融改革進展の象徴

内モンゴル自治区を拠点とし、格付けがAA+とされていたBaoshang Bank (BSB、包商銀行) は、2017年7-9月期以降の決算報告を公表しておらず2、同行の最大株主が銀行の資金を流用していたと告発されました。中国人民銀行(中央銀行)および中国銀行保険監督管理委員会(CBIRC)によれば、BSBを行政管理下に置いた意図は、システミック・リスクを回避し、預金者およびその他顧客の正当な権利と利益を保護し、BSBの業務運営停止を回避することでした3。BSBは銀行間市場に積極的に参加しており、行政管理下に置かれた時点で同行の銀行間債務(CD)残高は600億人民元に上りました。小口預金者は保護される可能性が高いものの、大口債権者は損失を被る可能性があります4

大局的な見地から言えば、今回の動きは政府が中小下位銀行を中心に金融セクター改革を推し進めようとしているものと弊社では見ています。規模の大きい国有銀行や株式会社形態の商業銀行から地方型や都市型の商業銀行に至るまで、中国には約4,600行の銀行があるなかで5、この動きは当局による下位銀行の監督強化を表しています。

一部の下位銀行はBSBと同様にディスクロージャーに問題を抱えていることが判明しました。2018年度の決算報告を公表していなかったBank of Jinzhou(錦州銀行)は、行政管理下に置かれた約1週間後に同行の顧客向けローンの一部が所定の目的には使われていなかったことが判明、監査役が辞任しました。この他にも、15行が今年の決算報告の開示を延期しているか、開示していません。そのうち12行は地方型商業銀行で、残りの3行は都市型商業銀行です6

この出来事は金融セクターにおける重要な変化を象徴していると考えています。従来、投資家は銀行間市場で生じ得る損失を政府が保証すると信じていました。しかし、それがモラル・ハザードの拡大に繋がりました。債権者と監督当局の交渉の最終的な結果はまだ明らかではないものの、多くの投資家が想定している金融機関に対する暗黙の保証が将来は適用されない可能性があることを、投資家は認識するべきと考えています。

中国の銀行セクター:格差は広がっているが、資産の質は向上

より広い観点から銀行システム全体を見ると、資産の質は向上しています。不良債権は2019年3月末時点で貸出全体の4.8%を占めていますが、過去5年間で最低水準にあります。銀行システムにおける一般準備金と自己資本もここ数年来の高水準に達しています7

しかし、資産の質の向上は主に規模の大きい国有銀行や株式会社形態の商業銀行で見られるものの、都市型商業銀行や地方型都市銀行は、資産の不良化や不十分な自己資本水準、銀行間の資金調達への過剰な依存など、引き続き困難に直面しています。弊社では、銀行セクター内において信用格差の開いた状態は続くと予想しており、投資家は質の高い資産に目を向け、規模の大きい国有銀行や株式会社形態の都市銀行に注目すべきと考えています。

とはいえ、BSBのような事件が増えたとしても、中国の銀行セクター全体にシステミック・ショックまたは危機が生じるとは予想していません。銀行システム全体では引き続きリスクを抑制し、金融監督当局は銀行セクターにおけるクレジット・イベント(支払不履行や倒産など)を抑制するように徹底するでしょう。

今後の見通し:リファイナンスへの取り組みが重要

中国経済はいくつかの課題に直面しており、デフォルト率は上昇すると見込まれます。中国の民間企業のデフォルト率は既に上昇しており、中国本土内のデフォルト率は2017年の0.7%から2018年には4.6%に上昇し、2019年1-5月では2.1%と高止まりしています8

今後、中国政府の政策はクレジット市場に大きな影響を及ぼすと考えられます。中央銀行の現在の金融緩和姿勢は、総じてリファイナンスへの取り組みを後押しすると考えられます。しかし、すべてのセクターが同等の恩恵を受けることはないと考えています。特に、工業セクターのハイイールド債においては、初めて債券を発行した多くの企業で今後2年間にわたりオフショア債の償還が予定されており、デフォルト・リスクは増大しています。これらの企業の一部については、不十分なディスクロージャーや脆弱なコーポレート・ガバナンスゆえ、投資家はその信用力に引き続き疑念を抱いていることから、リファイナンスは難しくなると考えています。

積極的な財政政策は、中国クレジット市場における重要セクターを後押しすると考えられます。例えば、政府の政策と密接に関連しているか、または国家体系上重要な国有企業(SOEs)は、政府がインフラ投資や政府関連支出によって地方企業を後押しするなかで、主な受益者の一つと考えられます。実際、流動性の改善によって、国有企業の中国本土市場における低調達コストでの債券発行が増加しています。また、今年発生したデフォルトの多くは民間企業であり、国有企業の中国オンショア債券のデフォルト率は低位に留まっています。しかし、国有企業のなかでも、単体での信用力が弱く、国家戦略上の重要性が乏しい質の低い国有企業については、その一部でこの数カ月間にデフォルトに近い状態もしくは利払いの遅延が発生していることから、引き続き慎重な見方をしています。

中国の不動産セクターも、中国経済への寄与度が高い重要セクターとして、米中間の貿易摩擦が激化するなか政府が成長の安定化を図っていることから、恩恵を受けると予想されます。この数カ月において、一部の都市では住宅購入制限策が緩和され、住宅ローン金利の低下が見られ、それが開発業者の受託売上高の回復に繋がっています9。中国の開発業者に係るリファイナンス・リスクは、多くの業者が1-4月の間に新規債券発行を通じて満期の到来する債券の資金手当てを事前に行っているため、軽減しています。

中国の特別目的会社(Local Government Financing Vehicles、LGFV)に関しては、今後3年間に満期を迎えるオフショア債が100億米ドル超/年に増大することから10、オフショア米ドル建て債券市場における資金調達ニーズについて新たな動きを注視する方針です。この変化はLGFVのリファイナンス能力を真に試すものになると考えています。LGFVのオフショア債では、最近デフォルトが生じていないため、市場は引き続きこれら債券の大部分がリファイナンスされると予想しています。リファイナンスが円滑になされなければ、投資家は政府債務の暗黙の保証という前提条件を見直す可能性があります。

銘柄選択が引き続き重要

中国経済・金融システムに甚大な影響を与えることなく、適切な方法で実施されるのであれば、一部の企業がデフォルトに陥るのを容認することは、中国にとって得策であると考えています。銘柄選択は非常に重要であり、現在のような市場環境下、企業間の格差は拡大すると予想されます。好況期にはどの企業も堅調に推移しますが、市場が転換点を迎える時こそ、真に良好なファンダメンタルズを有する企業を見出す機会になると考えています。

  1. 中国人民銀行、2019年5月24日
  2. Dagong Global Credit Rating Co., Ltd、2017年10月31日。ロイター、2019年5月30日。BSBの信用格付けは2015年から変更されていません。
  3. 中国人民銀行、2019年5月26日、2019年6月2日
  4. 中国人民銀行は5月24日、5,000万元を下回る企業預金および銀行間債務を保証する一方、5,000万元を超える債務については債権者と交渉する旨を発表しました。
  5. 中国銀行保険監督管理委員会(CBIRC)、2018年12月31日現在  
  6. Securities Times、2019年5月27日
  7. CBIRC、2019年5月10日現在。問題債権とは要注意先債権および破綻債権と定義されます。
  8. ブルームバーグ、2018年5月8日、ゴールドマン・サックス、2019年5月30日
  9. サウスチャイナ・モーニング・ポスト: “New home prices rise in almost all Chinese cities as lower mortgage rates, lighter restrictions spur demand” 、2019年5月16日
  10. シティバンク、2019年1月
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