アジアのESG投資:見逃せない変化

マレー・コリス
アジア債券チーム(除く日本)副CIO

エリック・ニーチェ
ESGチーム・アジア・ヘッド

アジアにおけるESG投資への投資家の関心の高まりは、各国の政策当局や金融業界にも幅広い影響を与えています。サステナビリティ課題に対応するためのアプローチとは?

アジアで活発化するESG投資

2021 年前半に発行されたサステナブル債券による資金調達額を、サステナビリティ問題への対応における進展の尺度と考えるなら、私たちは喜ぶべきでしょう。振り返ってみると、2021 年前半における環境・社会・ガバナンス(ESG)目標に関連した世界の起債額は前年から76% 増加し、5,516億米ドルという過去最高水準に達しました。これは起債額全体の10% 近くに相当し、わずか5 年前と比べても大きく拡大したと言えます1

起債全体に占める割合は欧州が最も高く(59.3%)、次いで北米と中南米を合わせた南北アメリカが第2 位となっています(19.1%)。注目すべきこととして、2021 年前半にはアジア太平洋(除く日本)でも発行本数と起債額の両方が増加し、全体の発行本数に占める割合は17.2%1(2020年前半の16.4%2から上昇)、起債額は950 億米ドル弱に拡大しています。

2021年前半にはサステナブル債券の起債が大幅に増加(単位:10億米ドル)
Chart comparing sustainable debt issuance in the first half of 2021 with the first half of 2020, according to geographical regions. The chart shows that sustainable debt issuance in the first half of 2021 has been significantly higher relative to the same period in 2020, particularly in Europe, and Asia-Pacific excluding Japan.

出所:リフィニティブ、マニュライフ・インベストメント・マネジメント、2021年7月

これらの数字は絶対値も注目に値しますが、2021 年前半にアジアで発行された債券全体に対する割合で見ると、一段と重みが増します。この間、アジアで発行された債券の約5 本に1 本がサステナブル債券に分類可能な債券でした。この基準で見ると、アジアは地域別に見たサステナブル債券の発行割合で南北アメリカと欧州を上回り、世界1 位となります。

ESG 債の発行が増加していることは、政策決定者や企業、投資家の間におけるサステナビリティ課題への意識の高まりを反映していると言ってよいでしょう。とりわけ新型コロナ危機によって、浮き彫りとなった問題への最適なアプローチに、大いに必要とされていた視点や枠組みがもたらされたことが追い風となりました。政策決定者はより良い復興を求める世論3に対応し、投資家の間では、幅広いESG 目標を前進させるために果たしうる役割が認識されるようになったことで、サステナブル投資に対するニーズが高まりました。

「私たちは、アジアにおけるサステナビリティへの関心の高まりは、債券投資家に魅力的な投資機会をもたらしうるという考え方を堅持しています」

特にその傾向が顕著なのがアジアです。世界の機関投資家200社(運用資産総額約18 兆米ドル)を対象に行った最近の調査では、アジア太平洋地域を拠点とする70 社前後のうち79% が、パンデミックを受けてESG へのアロケーションを大幅に、またはある程度拡大する計画であることが分かりました4。ESG に関して後れを取っていると思われていたアジア太平洋地域におけるこのデータは、投資家の考え方に重要な変化があったことを示しています。

こうした前向きな進展の一方で、課題も依然として残っています。

アジアのサステナブル債券市場における主要なトレンドや動向とその背景

サステナブル投資に関する世界的に合意されたタクソノミーが存在しないことは、引き続き投資家と発行体の頭痛の種になっています。同様に、適切な監査プロセスやベンチマークが存在しないために、一部の発行体が従来のESG 債の定義をどこまで拡大できるかを試す余地があり、環境への配慮を偽る「グリーンウォッシュ」の原因となりかねないだけでなく、本来なら急成長していくであろう市場に不協和音をもたらしています。また、意欲の問題もあります。投資家、発行体および政策決定者の全体が、十分とは言えないESG 目標を支持(および認定)した世界的な枠組みを受け入れるという落とし穴を避けるには、どうすればよいのでしょうか。

こうした課題の多くは全世界に関係するものですが、私たちは、アジアの政策決定者や企業、投資家が、世界および地域、セクター・レベルの解決策を見つけるために積極的に取り組むことは重要だと考えています。

私たちは、アジアにおけるサステナビリティへの関心の高まりは、債券投資家に魅力的な投資機会をもたらしうるという考え方を堅持しています。本レポートでは、アジアのサステナブル債券市場における主要なトレンドや動向と、その背景にある状況を解説します。

また、ESG 投資に対する積極的なアプローチが、投資家にとって有意義な投資機会を見出すだけでなく、重要な関係者(例えば、政策決定者や投資先企業)との対話を促進し、よりサステナブルな未来の創造という共通目標の実現に近づくことにどう役立つかについても明らかにしたいと思います。

 

※レポート全文(日本語)は、当ページ上部の「ダウンロード」よりご覧いただけます。

  1. 「Sustainable finance review first half 2021」、リフィニティブ、2021年7月19日
  2. 「Sustainable finance review first half 2020」、リフィニティブ、2020 年7 月
  3. oecd.org/coronavirus/policy-responses/building-back-better-a-sustainable-resilient-recovery-after-covid-19-52b869f5/
  4. 「Investment Insights 2021: Global Institutional Investor Survey」、MSCI、2021 年 1 月

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