アジアのESG投資:見えざる進化

マレー・コリス
 アジア債券部門(除く日本)副CIO

サステナブル投資・責任投資は、世界中で短期間の間に投資における最も重要な基準のひとつとなりました。アジアにおいても、導入ペースは緩やかながら、この傾向は拡大しています。さらに、サステナビリティは投資パフォーマンスを向上させる重要な要因と考えられています。本稿では、アジア債券部門副CIO(除く日本)であり、アジア債券サステナブル投資戦略のリード・ポートフォリオ・マネージャーのマレー・コリスがこうした動きの背景にある要因と新型コロナウイルス感染症の拡大が及ぼしうる影響を考察します。また、拡大基調にあるアジアのサステナブル投資市場での、企業への投資とエンゲージメントにおいて、アクティブ運用が果たす役割について解説します。

アジア債券市場は、サステナビリティへの意識とインテグレーションが高まるにつれ、どのように発展を遂げていますか。また、その成長を支える主な推進力は何ですか。

サステナビリティに関して、アジアはこの10年間に大きく進展し、ESGの概念を積極的に取り入れています。私たちはアジアでのサステナビリティ拡大の背景にはいくつか異なる要因があると考え、そうした要因を徐々にポートフォリオに組み込んできました。アジア各国政府は、域内のESG課題に真摯に取り組む決意を継続的に表明しています。例えば、中国は昨年末頃に2060年までにカーボン・ニュートラルを目指す意向を発表し、韓国、日本、香港も同様の目標を2050年までに達成することを宣言しました。

この10年間に見られたことは、アジア各国政府がESG課題を認識し、それに対処するための枠組み構築に着手したことです。これを契機にアジアのサステナビリティ市場の拡大が始まりました。課題が政府の政策議題になると、規制当局が注目し始めます。アジア各国は、ESG投資のベスト・プラクティスの原則の構築・開発に取り組み始め、こうした国や地域にある企業もスチュワードシップ・コードを採用し始めています。現在、アジアではCEOと会長の任務の分離といったガバナンス規制を上場企業の必須要件とする国や地域が増えています。

中央銀行もアジア域内のESG市場の成長を支える対策を講じています。その好例として、シンガポール金融管理局はシンガポールのサステナブル・ファイナンスの発展を支援するための資金として20億米ドルを確保し、中国人民銀行はグリーン・ボンドを中期貸出ファシリティ制度の担保として認めるなど、近年、一連の重大な対策を講じています。政府や規制当局がサステナビリティ市場の成長を支えるための対策は多岐にわたり、アジア各国がそうした対策を採用し始めていることはポジティブな動きであると言えます。

投資家の視点では、アジアのサステナブル債券への投資で得られる利益への関心が高まっています。サステナブル投資が中長期的にアウトパフォームする傾向があることは歴史的に実証されており、投資家はESG投資を行う際にこの点を考慮し始めています。

もう1つ注目すべき明るい進展は、アジアから発信される経済や企業のデータの質がこの2~3年一貫して向上していることです。より良質なデータを利用できるようになることで、投資家はより的確な投資判断を行うことが可能になると考えています。そのため、データの質の向上も市場の成長に寄与しています。

アジアの企業を見ると、ESGとサステナビリティに関する報告内容が徐々に向上しています。これはエンゲージメントの結果でもあり、規制環境やこのテーマへの政府のアプローチによる部分もあります。前述したように、アジアの企業はベスト・プラクティスを採用し始めており、それがサステナブル投資プロダクトへの投資機会を生み出しています。その好例はアジアのグリーン・ボンド市場です。グリーン・ボンドは4~5年前までほとんど発行されていませんでしたが、ブルームバーグの推計によると、2016年以降、中国が世界のグリーン・ボンド発行額の17%近くを占めるまでになっています。

以上をまとめると、様々な要因が市場拡大を後押ししていることは明白です。規制当局と政府はサステナブル投資の成長をサポートおよび奨励し、投資家は企業に倫理的なビジネス慣行の採用と実践を要求しています。

アジアのサステナブル投資分野では、中国が先導しているのですか。

アジアでは先進国・地域が先行していると言って差し支えないでしょう。例えば、香港とシンガポールはいずれも多額のグリーン・ボンド発行を開始しています。中国は(常にそうですが)アジア地域最大市場の1つで、アジアのクレジット市場に占める中国の比率はこの10年で劇的に上昇しています。

インドでも大きな進展が見られますが、この分野ではまだ取り組むべき多くの課題を抱えています。インド、中国、そして一部の南アジア諸国の再生可能エネルギー企業の社債発行額は格段に増加することが見込まれることから、短期的な観点においても有望な投資機会が生じると思われます。

新型コロナウイルス感染症拡大とパンデミック下での運用から、どのような知見が得られましたか。

様々な観点を通じて、私たちは自らの見通しに確信を強めることが出来ました。私たちは長年にわたってESGを投資プロセスに組み込み、アジアでの投資では、特にハイイールド債を検討する際、ガバナンスを常に重要な要素と考えてきました。

新型コロナウイルス感染症拡大とパンデミックの下で生じた状況を見ると、より広範な社会と環境の課題の重要性が一層認識されるようになっています。投資家はこうした課題に真剣に注目し、考慮するようになり、それがソーシャル・ボンドの発行という形で市場に反映され始めています。2020年には世界のソーシャル・ボンド発行額が前年の133億米ドルから急増し1,600億米ドルを突破し、市場の投資機会は確実に拡大しています。ESG分析は世界的には環境問題に重点が置かれる傾向がある一方、アジアではガバナンスが問われることが多いのですが、信用分析やポートフォリオ構築の一環として、すべての重要なESG課題を総合的に検討することが重要だと考えています。

新型コロナウイルス感染症の拡大によってESGは投資家の優先課題の下位に引き下げられましたか。

全く逆の状況となっています。世界全体で投資家は2020年第4四半期に1,520億米ドルをESGファンドに投資しました。理由はいくつかありますが、1つ目の理由として投資家は新型コロナウイルス感染症の影響を目の当たりにし、対処が必要なサステナビリティ課題に注目が集まったことが考えられます。2つ目は、昨年3月と4月に生じた市場の乱高下を見て、投資家はおそらく経済的リスクを実感として意識し、持続可能なビジネス・モデルを有する堅固な企業に投資したいと考えるようになったと思われることです。

債券発行体に対し、ESG関連要素についてどのようなエンゲージメントを行っていますか。

多面的なアプローチを採用しています。エンゲージメントと言えば、通常は株式市場を考えますが、エンゲージメントは債券市場でも実に重要で、特にアジアでは不可欠です。

私たちは、エンゲージメントを対象企業と長期的な関係を構築する機会であるととらえています。

発行体へのエンゲージメントでは、様々なトピックについて話し合いますが、それを通じて発行体が採用しているビジネス・モデルや戦略について幅広い洞察を得ることができます。さらに規制当局や政府への対応から得られた知見を活かして、アジア域内の有望な投資機会を見出すこともできます。つまり、エンゲージメントは私たちと投資家の成果向上を可能にするものです。

私たちが目指しているのは、サステナビリティのベスト・プラクティスと考える手法を共有することです。単にエンゲージメントの回数ではなく、エンゲージメントの結果として望ましい成果を達成することが重要であると考えています。

今後、この資産クラスの主な投資機会はどのような分野に生じると思いますか。

現在、アジアの一部の国と地域は世界最大の二酸化炭素排出国です。そうした国が最近、炭素排出量と吸収量を差し引きゼロにすると宣言したことは、低炭素経済への重要な移行を表しています。こうした移行はサステナブル投資家に投資機会をもたらします。足元では気候変動とそれに伴うリスクへの注目が高まっており、これは長期的な投資トレンドになると思われます。

例えば、中国の不動産開発業者によるグリーン・ボンドの発行が急増していますが、実に興味深いことだと考えています。これは、政府が国内市場の現状を認識し、ベスト・プラクティスの採用を奨励していることを示唆しています。こうした新たな債券発行の多くは、既存の不動産をグリーン基準に準拠して改修・改良することに充当されますが、これは非常に望ましい成果であると考えています。これらグリーン・ボンドの多くは、相対的に高い利回りで取引されており、投資家にとっても魅力ある投資対象になると考えています。

再生可能エネルギーはアジアにおけるもう1つの成長分野になると予想されるため、私たちは引き続きこの分野を注視しています。インドや他の東南アジア諸国・地域にも優れた投資機会を見出しています。

アジア債券へのサステナブル投資でアクティブ・アプローチを取るのはなぜですか。

インデックス運用とアクティブ運用のどちらのアプローチを取るか検討するとき、投資家が考慮しなければならない制約や課題がいくつかあります。私たちは、アクティブ・アプローチを取ることで、リサーチを通じて最もクオリティの高い銘柄もしくは、最もパフォーマンスが優れた銘柄を選択し、そうした銘柄に適切な投資配分を行うことが可能になると考えています。私たちにとって、アクティブ・アプローチは長期的により高いリターンを創出する最善の方法であると考えています。

  1. Refinitiv、2020年12月17日現在
  2. Morningstar Research ”Global Sustainable Fund Flows: Q4 2020 in Review”、2021年1月28日
  • 本資料は、海外グループ会社の情報を基にマニュライフ・インベストメント・マネジメント株式会社(以下「当社」といいます。)が作成した情報提供資料です。
  • 参考として掲載している個別銘柄を含め、当社が特定の有価証券等の取得勧誘または売買推奨を行うものではありません。
  • 本資料は、信頼できると判断した情報に基づいておりますが、当社がその正確性、完全性を保証するものではありません。
  • 本資料の記載内容は作成時点のものであり、将来予告なく変更される場合があります。
  • 本資料のいかなる内容も将来の運用成果等を示唆または保証するものではありません。
  • 本資料に記載された見解・見通し・運用方針は作成時点における当社の見解等であり、将来の経済・市場環境の変動等を示唆・保証するものではありません。
  • 本資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、その開発元または公表元に帰属します。
  • 本資料の一部または全部について当社の事前許可なく転用・複製その他一切の行為を行うことを禁止させていただきます。

商号: マニュライフ・インベストメント・マネジメント株式会社

登録番号: 関東財務局長(金商)第433 号

加入協会: 一般社団法人 投資信託協会 一般社団法人 日本投資顧問業協会 一般社団法人 第二種金融商品取引業協会

 

世界的なパンデミックなどの公衆衛生危機は、市場のボラティリティの大幅な上昇、証券取引の停止等の原因となり、ポートフォリオのパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があります。例えば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界の経済活動に深刻な打撃を与えています。将来、発生する可能性のある公衆衛生危機、およびその他のエピデミックやパンデミックは、現時点では必ずしも予測可能ではない影響をグローバル経済に与える可能性があります。公衆衛生危機は、既存の政治的、社会的、経済的リスクを悪化させる恐れがあります。こうした事象はポートフォリオのパフォーマンスに悪影響を与え、投資に損失が生じる可能性があります。

投資には、元本割れなどのリスクが伴います。金融市場は変動しやすく、企業、産業、政治、規制、市場又は経済の変化に応じて乱高下することがあります。エマージング市場での投資に関しては、これらのリスクはより大きくなります。為替リスクとは、為替レートの変動がポートフォリオの投資の価値に悪影響を及ぼすことがあるというリスクです。

 

掲載されている情報は、特定の人に係る適合性、投資目的、経済状態又は特定のニーズを考慮したものではありません。お客様自身の状況にどのような種類の投資が適しているかどうかを検討し、必要に応じて専門的アドバイスを求めることをお勧めします。

 

本資料は、利用者に関係する法域に適用される法令等に基づき受領を許可された者のみの利用に供することを目的として、マニュライフ・インベストメント・マネジメントが作成したものです。本資料に掲載された見解は、公表時におけるマニュライフ・インベストメント・マネジメントの見解であり、市場環境その他の状況に基づき変更される場合があります。本資料に掲載されている情報及び/又は分析は、信頼性があると思われる情報源から入手したものですが、マニュライフ・インベストメント・マネジメントは、当該情報及び/又は分析の精度、正確性、実用性又は完全性について何らの表明も行わず、当該情報及び/又は分析を使用したことによる損害について一切責任を負いません。本資料の情報には、将来の事象、目標、運用哲学その他の予想に関する予測や見通しについての記述が含まれていることがありますが、いずれの情報も表示されている日付時点での最新の内容です。本資料における情報(金融市場の動向に関する説明など)は現在の市況に基づいていますが、現在の市況は今後の市場での出来事その他の理由によって変動し、置き換えられる可能性があります。マニュライフ・インベストメント・マネジメントは、かかる情報を更新するいかなる責任も負いません。

 

マニュライフ・インベストメント・マネジメント若しくはその関連会社、又はマニュライフ・インベストメント・マネジメント若しくはその関連会社の取締役、執行役若しくは従業員のいずれも、本資料の情報を信頼して行動し又は行動しなかった人が直接又は間接的に被った損失、損害その他の結果に関する責任を負うものではありません。全ての見解及び解説は、一般的な性質を有するように意図されており、現時点の関心事に資するためのものです。これらの見解は有用であると考えていますが、税務、投資又は法務に関する専門的アドバイスに代わるものではありません。お客様固有の事情につきましては、お客様自身が適切な専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。マニュライフ若しくはマニュライフ・インベストメント・マネジメント又はマニュライフ若しくはマニュライフ・インベストメント・マネジメントの関連会社若しくは代表者のいずれも、税務、投資又は法務に関するアドバイスを提供するものではありません。過去の実績は将来の結果を保証するものではありません。本資料は、もっぱら情報提供を目的として作成されており、有価証券の売買又は投資戦略の採用につき、マニュライフ・インベストメント・マネジメント又はその代理人が推奨したり、専門的アドバイスを提供したり、申込み又は勧誘したりするものではありません。また、マニュライフ・インベストメント・マネジメントが管理するファンド又は口座における取引の意図を示すものでもありません。いかなる市場環境においてもリターンを保証し又はリスクを排除する投資戦略又はリスク管理手法はありません。分散投資又はアセット・アロケーションによって、いかなる市場においても、利益が保証されることはなく、損失から保護されることもありません。別途示している場合を除き、全てのデータの出所はマニュライフ・インベストメント・マネジメントです。

 

マニュライフ・インベストメント・マネジメントについて

 

マニュライフ・インベストメント・マネジメントは、Manulife Financial Corporationのグローバルな資産運用ビジネス部門です。私たちは150年超にわたり、スチュワードシップ責任に則って、年金基金、機関投資家、個人投資家の皆さまに包括的な資産運用ソリューションをご提供しています。資産運用における私たちの専門的なアプローチには、債券、株式、マルチアセット及びプライベート・アセットの各運用チームが提供する高度に差別化された戦略があり、それらに加えて、私たちのマルチマネジャー・モデルを通じて特色ある独立系資産運用会社の戦略へのアクセスも可能です。

 

これらの資料は、有価証券その他の規制当局に審査及び登録されていませんが、以下のマニュライフ・グループの会社がそれぞれの法域で適宜配布することもあります。マニュライフ・インベストメント・マネジメントに関する追加情報については、次のURLに掲載されています。www.manulifeim.com/institutional

 

オーストラリア: Hancock Natural Resource Group Australasia Pty Limited, Manulife Investment Management (Hong Kong) Limited. ブラジル: Hancock Asset Management Brasil Ltda. カナダ: Manulife Investment Management Limited, Manulife Investment Management Distributors Inc., Manulife Investment Management (North America) Limited, Manulife Investment Management Private Markets (Canada) Corp. 中国: Manulife Overseas Investment Fund Management (Shanghai) Limited Company. 欧州経済領域(EEA)及び英国: Financial Conduct Authority (FCA) 規制下にあるManulife Investment Management (Europe) Limited、アイルランド中央銀行の規制下にあるManulife Investment Management (Ireland) Limited 香港特別行政区: Manulife Investment Management (Hong Kong) Limited. インドネシア: PT Manulife Aset Manajemen Indonesia. 日本:マニュライフ・インベストメント・マネジメント株式会社 マレーシア: Manulife Investment Management (M) Berhad(旧Manulife Asset Management Services Berhad)登録番号:200801033087 (834424-U) フィリピン: Manulife Asset Management and Trust Corporation. シンガポール: Manulife Investment Management (Singapore) Pte. Ltd.(会社登記番号:200709952G スイス: Manulife IM (Switzerland) LLC. 台湾: Manulife Investment Management (Taiwan) Co. Ltd.  米国: John Hancock Investment Management LLC, Manulife Investment Management (US) LLC, Manulife Investment Management Private Markets (US) LLC and Hancock Natural Resource Group, Inc. ベトナム: Manulife Investment Fund Management (Vietnam) Company Limited.  

Manulife Investment Management. All rights reserved. Manulife Investment Management及びMのデザイン、並びにManulife Investment ManagementとMのデザインの組み合わせは、The Manufacturers Life Insurance Companyの商標であり、同社のみならず、ライセンスに基づき同社の関連会社にも使用されています。