円建ハイブリッド債券投資の意義

長藤 徹志 | 債券運用部

シニア・ポートフォリオ・マネージャー

主なポイント

  • 過去10年に亘って続いた世界的な景気拡大にも陰りが見え始め、金利低下圧力が強まる中、相対的に高い利回りが期待できる資産が円建ハイブリッド債券です。
  • 金融機関に加え、成長のための資金需要が強い事業会社の円建ハイブリッド債券発行が相次いでいます。
  •  円建ハイブリッド債券への投資については、超低金利環境下において相対的に高い利回りが期待できるとともに、日本の金融システムの安定化、事業会社の成長戦略の支援、日本経済の活性化などに貢献できるという意義もあります。

過去10年に亘って続いた景気拡大に陰り

過去10年に亘って続いた世界的な景気拡大に陰りが見え始めています。経済・市場統計は景気悪化の兆候を示しており、特に実質金利の上昇を背景として、2019年後半以降は経済成長の減速が鮮明になると見られます。

1) 経済成長は減速へ

貿易戦争による米国および中国経済成長の鈍化は当面継続する可能性が高いと考えられます。経済成長見通しが好転する展開は想定しにくく、景気後退確率は徐々に高まっていると見ています。また、これまでのFRB(米連邦準備制度理事会)の一連の金融引き締め政策の一方で、物価は低位安定してきたことを背景に、金利から物価上昇率を差し引いた実質金利は上昇してきました。

実質金利の上昇によって企業の借入金利や家計の住宅ローン金利の負担感が増し、今後は世界経済の成長の減速が鮮明になってくると考えられます。

2) 日銀(日本銀行)の動向

今後も、日銀による国債購入減額は継続すると見られますが、国内消費者物価上昇率はコアで0% 近辺まで低下する見通しで、特に世界経済の減速により円高圧力が高まる場合には、追加緩和の可能性も小さくなく、引き続き、日本の超低金利環境は続くものと考えます

このような環境下、相対的に高い利回りが期待できる資産が円建ハイブリッド債券です。

円建ハイブリッド債券の活用

円建ハイブリッド債券市場の拡大

国内債券市場では、従来から金融規制対応として大手金融機関が継続的に円建ハイブリッド債券を発行してきたことに加え、近年はグローバル化や成長のための資金需要が強い事業会社の発行が相次いでいます。

最近では、円建ハイブリッド債券の大型発行が続いています。例えば、武田薬品工業が日本企業としては過去最大規模となる5,000億円のハイブリッド債券を今年5月に起債しました。同社は今年1月、アイルランドの大手製薬会社シャイアーを買収しました。

日本企業で過去最大規模となるこの買収(買収総額約6.2兆円(2019年1月時点))により、世界の製薬会社における売上高順位(2017年)が20位前後から10位以内に入ることになります。ハイブリッド債券で調達した資金はこの買収に充てられます。ハイブリッド債券は、増資と異なり株式希薄化がない上に、一部資本性が認められることが利点となっています。これによって発行企業は、格付けを維持する効果も期待できます。

円建ハイブリッド債券の特徴

円建ハイブリッド債券の利回りは普通社債や国債よりも高くなっています。例えば、武田薬品工業のハイブリッド債券の利回りは、発行時(2019年5月末)で1.72%であったのに対して、同社の普通社債の利回りは0.10%、国債利回りは-0.19%でした。こうした相対的に高い利回りによって、安定的なリターンが期待できることが円建ハイブリッド債券の特徴です。

円建ハイブリッド債券のリスク

仮に、発行体が法的整理に至った場合、普通社債よりも元本の返済順位が低くなります。また、発行体の裁量により利息の支払いを繰り延べることができます。そのため、発行体の信用力が悪化すると、債券価格は相対的に大きく下落することになります。こうした信用リスクの変化に対応するためには、発行体の信用力を常にモニターできる充実した調査体制が必要とされます。

また、債券は株式のように取引所で売買されるものではなく、証券会社店頭での相対取引となるため流動性リスクについても考慮が必要です。流動性リスクに対応するために、市場動向を迅速かつ的確に把握する充実した運用体制も不可欠です。

円建ハイブリッド債券に投資する意義

超低金利環境が続く中、円債投資において相対的に高い利回りが期待できる円建ハイブリッド債券が果たす役割は大きいと考えます。

また、日本の金融機関や日本企業が発行する円建ハイブリッド債券に投資することは、日本の金融システムの安定化、日本企業の成長戦略の支援、日本経済の活性化などに貢献できるという意義もあると考えます。

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