パンデミック下における米国地方公共債

デニス・ディシコ
ポートフォリオ・マネージャー、米国地方公共債運用チーム

 

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、米国経済はかつてない打撃を受けています。米国地方公共債の直接的または間接的な保証の裏付けとなる歳入は、大半が当初の予想を下回っています。歳入の落ち込みについては発行体によりまちまちではありますが、米国地方公共債全体のほぼ3分の2を占めるレベニュー債は、安定したリターンが見込めると当運用チームでは見ています。

財源は枯渇するのか??パンデミック下における地方公共債

一般財源保証債(GO債)における元利金の支払い保証は、発行体の多様な税収源により支えられています。各州の財源は様々ですが、大半は個人所得税、法人所得税、売上税から構成されています。 

過去の実績として、リセッション期に最も大きく影響を受けるのは売上税や所得税で、大抵の場合、急速に減少します。足元においては、歳入の減少と同時に、新型コロナウイルスの影響に対処するための様々な対策支出も増加しており、資金残高は減少しています。また、年金掛金の納付猶予と想定外の運用益悪化によって年金債務は増加しています。今後いくつかの州は歳入不足を埋め合わせるために短期借入金を増やす必要に迫られる可能性があります。しかしながら、全体的に見ると州の信用力は過去数年間と比較して低下することが予想されますが、2020年初時点の財政力はどの州も同じというわけではなく、比較的十分な財政的備えのあった州はこの環境を乗り切ることができると思われます。

地方公共団体:固定資産税が下支えに

GO債の発行体である地方公共団体などの地方政府も州政府と同様に信用力の問題に直面していますが、新型コロナウイルス危機による影響は相対的に小さいと思われます。ほとんどの地方公共団体では、固定資産税収入が年間の一般財政予算の50%以上を占めています。予てより、固定資産税収入はリセッション期においても売上税や所得税と比べて安定的な税収源でした。さらに、新型コロナウイルス危機の中でも住宅市場は予想外の底堅さを示しています。固定資産税への依存度が高いことは、州政府と比べて、多くの地方公共団体のパフォーマンスに有利に働くと見ています。

レベニュー債:航空業界・空港セクターへの逆風は続く

経済封鎖は予想どおり、航空業界に深刻な打撃を与えています。空港セクターが有料道路以上に厳しい逆風を受けていることは確かですが、多くの空港はこのリセッションを生き抜くだけの備えがあります。空港の多くは、コロナウイルス支援・救済・経済保障法(通称、CARES法)によって連邦政府から補助金が支給され、新たな刺激策による連邦政府の追加支援も見込まれます。連邦政府の支援を受ける前でさえ、手元現金の中央値は659日分あり、これはほとんどの空港が長期間の経済封鎖に耐えられることを示しています。空港の輸送量が過去最高となった2019年の水準まで回復するには数年かかると思われますが、国内輸送網に不可欠な大規模なハブ空港は長期的に回復が見込まれます。

レベニュー債:病院セクターは経済回復に不可欠だが、厳しい状況に直面

病院セクターは最も不透明感の強いセクターであると考えます。新型コロナウイルスへの対応に伴い、緊急性の低い手術はほとんどが中止・延期されました。病院全体の患者数は3月中旬以降に30~50%減少しましたが、一般的にこうした治療は最も収益性の高い収入源でした。手術は再開され、収益は増加に転じたものの、足元で全国的に新型コロナウイルスの新規感染者数が増加していることから、感染症拡大前の水準への回復は遅れると思われます。病院は設備投資と人件費を削減し、レイオフや一時帰休を始めていますが、失った患者数と収益をどう補うかが依然として重要な課題です。一部の病院には連邦政府による支援と助成金が必要不可欠と思われます。

レベニュー債:相対的に安定が見込まれるセクター

長期見通しについては、ほとんどのレベニュー債セクターにおいて強気を維持しますが、地方公共債の中でも上下水道や電力会社といった公益事業を裏付けとする銘柄は短期的・長期的に最も安全かつ安定的に推移すると思われます。公益事業は総じて潤沢な流動性を有し、料金の値上げが可能です。そのサービスは生活に必要不可欠で、独占的な供給体制にあることから、景気サイクルを通じて堅調な売上と財務実績を達成しています。特に人々が自宅で過ごす時間が増えていることから、住宅が大半を占める地域をサービスの対象範囲とする公益事業体は、産業集中地域を対象とする公益事業体よりも安定した業績を達成する可能性があります。

有料道路も長期的に信用力が問題となる可能性が低いセクターです。通勤利用者や旅行者が全般的に減少したことで有料道路の利用は落ち込んだものの、有料道路システムの多くはこのコロナ禍を乗り切ることが可能であると考えています。有料道路の2019年末時点における手元現金の中央値は概ね914日分の収益に相当し、中には2,000日分を上回る流動性を持つ事業者も存在します。そして、今後経済活動が全国的に再開された際には、有料道路の交通量は急速に回復すると予想しています。また、バス、電車、飛行機といった公共交通機関でリスクにさらされるよりも、自動車での移動を選択するといった行動様式の変化が道路交通量の増加につながる可能性も視野に入れています。

投資魅力度の高いレベニュー債

全体的に、レベニュー債の信用力が今後数ヶ月間で大きく低下することはないと思われます。生活に必要不可欠なサービスの収入の落ち込みは比較的小幅な水準に留まることが予想されます。もちろん、レベニュー債への投資には徹底した厳密なファンダメンタルズ分析は不可欠です。その上で、レベニュー債はコロナ禍においても安定した最大限の収益機会を投資家に提供しうる資産クラスであると考えています。

  1. ムーディーズ、2019年11月20日
  2. S&Pグローバル・レーティング “A Bumpy Recovery Is Ahead For Hospitals And Other Health Providers As Non-Emergent Procedures Restart”、 2020年5月26日
  3. ムーディーズ、2020年9月24日

主なリスク

  • 価格変動リスク 有価証券の価格は、市場における取引価格や評価価格の変動、為替相場の変動及び金利水準の変動等により上下しますので、投資元本を割り込むことがあります。債券については、期限前に償還される場合があり、これによって投資元本を割り込むことがあります。
  • 発行者等の信用リスク 有価証券等の発行者やデリバティブ取引の相手方の経営・財務状況の変化及びそれらに関する外部評価の変化等により、投資元本を割り込んだり、その全額を失ったりすることがあります。
  • 為替変動リスク 投資対象の通貨の対円レートの変動により、損失を被り、投資元本を割り込むことがあります。対円での為替ヘッジを行う場合は、為替リスクの低減を図ることができますが、為替ヘッジを行うにあたりヘッジコストがかかります。
  • 流動性リスク 有価証券等を売却あるいは取得しようとする際に、市場に十分な需要や供給がない場合や取引規制等により十分な流動性の下で取引を行えない、または取引が不可能となる場合は、市場実勢から期待される価格で売買できない可能性があります。この場合、損失を被り、投資元本を割り込むことがあります。
  • カントリーリスク 外国における政治・経済・社会情勢の変動や天変地異等により投資対象である有価証券等の売買が制限されたり、売買や受渡等が不能になったりするおそれがあります。通貨不安が発生して大幅な為替変動が起こったり、円への交換が制限されたり、あるいはできなくなったりする場合があります。各資産の取り扱いは、それぞれの外国の市場制度や課税制度に準じますが、これらの制度等の変更が行われる場合があります。これらを通じ、損失を被り、投資元本を割り込むことがあります。

※リスクは上記に限定されるものではありません。詳しくは契約締結前交付書面等でご確認下さい。 

手数料等

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登録番号: 関東財務局長(金商)第433 号

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世界的なパンデミックなどの公衆衛生危機は、市場のボラティリティの大幅な上昇、証券取引の停止等の原因となり、ポートフォリオのパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があります。例えば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界の経済活動に深刻な打撃を与えています。将来、発生する可能性のある公衆衛生危機、およびその他のエピデミックやパンデミックは、現時点では必ずしも予測可能ではない影響をグローバル経済に与える可能性があります。公衆衛生危機は、既存の政治的、社会的、経済的リスクを悪化させる恐れがあります。こうした事象はポートフォリオのパフォーマンスに悪影響を与え、投資に損失が生じる可能性があります。

投資には、元本割れなどのリスクが伴います。金融市場は変動しやすく、企業、産業、政治、規制、市場又は経済の変化に応じて乱高下することがあります。エマージング市場での投資に関しては、これらのリスクはより大きくなります。為替リスクとは、為替レートの変動がポートフォリオの投資の価値に悪影響を及ぼすことがあるというリスクです。

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