中国債券:米国大統領選挙結果が及ぼしうる影響

ポーラ・チャン
アジア債券運用チーム シニア・ポートフォリオ・マネージャー 

 

2020年11月、米国の有権者は、同国の次の指導者となるべき人物を決定しました。次期大統領に選出されたジョー・バイデン氏が勝利宣言をした一方、本稿執筆時点で、トランプ現大統領はまだ正式には敗北を認めていません1。本稿では、アジア債券運用チームのシニア・ポートフォリオ・マネージャーであるポーラ・チャンが、米大統領選挙結果が中国債券市場に及ぼしうる影響を分析し、中国の新5ヶ年計画が中国経済と金融市場に及ぼすと見られる影響について考察します。

現在の当チームの基本シナリオは、バイデン氏が次期大統領に就任する一方、米国議会の「ねじれ」は継続するというシナリオです。そして、上記の米大統領選挙の結果は中国債券にとって概ねポジティブな結果であると考えています。

米中関係は安定化するものの、対立は継続

マクロ的な観点から見れば、バイデン政権下では、米中関係が改善する可能性があると考えています。両国の外交関係の緊張が劇的に改善する可能性は低いものの、両国により、更なる建設的な対話が継続されれば、貿易や経済成長の促進を目的とした二国間の協力関係の向上につながると思われます。また短期的には、両国が経済的に分離(デカップリング)するリスクは低いと見ています。しかし長い目で見ると、多国籍企業が製造拠点やサプライチェーンを中国から移管する流れは今後も続くと予想され、投資家はこの流れが中国経済に及ぼす影響を注視していく必要があります。

第14次5ヶ年計画(2021年~2025年):注目すべき重要な政策の枠組み

米大統領選挙の結果に関わらず、中国の第14次5ヶ年計画(2021年~2025年)は、中国経済の短期的な発展の道筋において大きな役割を果たすと考えています。中国政府は10月に次の5ヶ年計画の詳細を発表しました。その内容は、自国の技術革新力の向上を目指し、軍事防衛力を強化すると共に、所得水準を引き上げ、厳格な環境保護目標を実現するために、(単なる量的なGDP目標の達成だけでなく)経済成長の質を重視するというものでした2

より長期的には、中国は内需を更に拡大すると同時に海外からの対内投資を誘致し、輸出生産能力を高めるための環境整備を目指す「双循環政策(dual circulation policy)」3に重点を置くと思われます。

そこに含まれる投資家へのメッセージは明白であり、中国は、欧米経済圏からの経済的な独立、もしくはデカップリング、少なくとも依存度の引き下げに向けて動いていることがうかがえます。また、中国は引き続き、構造改革を通じて、中国国有企業(SOE)セクターの効率性と資本収益率の向上にも力を入れていくと思われます。各地域が都市としての発展を遂げる過程で、国内の消費や経済成長は後押しされるものと見ています。

金融政策により中国のオンショア社債市場は下支えされると予想

中国オンショア債券市場に関して、中国人民銀行(中央銀行)は緩和的な金融政策を維持すると予想され、良好なクレジット環境が継続すると見ています。中国経済は新型コロナウイルスによる混乱からまだ完全には回復しておらず、世界経済が減速しつつある中、同中央銀行は緩和的な金融政策により経済の下支えを図っています。こうした政策スタンスは、国債市場にとってプラスに寄与すると見ています。

社債については、企業による起債需要は強く、新たなセクターの発行体による起債や、(5ヶ年計画の環境に関するテーマに沿った)グリーンボンド関連の起債が拡大すると予想しています。また、既に米ドル建て社債の発行を活発に行っている発行体において、国内での起債に関心が高まると見られます。中国の発行体は、国内での起債を通じて国内の潤沢な流動性を活用でき、かつ資金調達先を多様化できるます。また、海外での起債と比べ、借入コストを抑えられる可能性もあります。

もちろん、中国のGDP成長率が加速するに伴い、債券のデフォルト率・件数は低下することが予想され、デフォルト自体も競争力の低い民間製造業などの相対的にファンダメンタルズが脆弱なセクターに限定されると考えています。また、SOEセクターの改革により、同セクターの債券のファンダメンタルズは、中期的に改善していくと見ています。

人民元は短期的に堅調に推移する見通し

為替に関しては、中国経済がコロナ禍から早期に回復し、他の主要国と比べ安定したプラス成長を実現する中で、人民元は短期的に堅調に推移すると見ています。また、他の主要債券市場を上回る金利水準も、引き続き中国資産への資金流入をもたらし、人民元を下支えすると予想されます(図1を参照)。

当チームの基本シナリオでは、人民元は当面の間レンジ内で推移するものの、バイデン次期大統領の経済政策が市場の予想に沿ったものであることが判明すれば、再び上昇し始める可能性があると見ています。その一方で、中国政府が提唱する「双循環政策」が、目標とする経済成長の達成に失敗するか、もしくは世界経済の悪化により、他国との貿易に大きな影響が生じた場合、人民元は今後、下押し圧力にさらされる可能性があります。

まとめ

バイデン氏が米国次期大統領となり米中の外交関係が安定化するという当チームの基本シナリオが実現すれば、中国の債券市場にとってプラスに寄与することが予想されます。しかし、中国は長期的な視野に基づく新5ヶ年計画の中で、国家競争力を強化し内需を拡大すると共に、欧米諸国への経済的な依存度を引き下げる方針を示しており、今後の中国の諸外国との関係性や方針には、引き続き高い注意を払う必要があります。 

  1. 2020年11月7日、AP通信がバイデン候補の地元ペンシルベニア州での勝利を伝え、同候補は大統領への当選を決めました。この勝利により、バイデン候補は同州の選挙人20人を獲得し、当選に必要な270人の節目を上回りました。ブルームバーグ:“Biden declares victory, calls on Americans to mend divisions” 2020年11月8日。本校執筆時点は11月15日。
  2. ウォール・ストリート・ジャーナル “China stresses reliance on Its Own Technologies in Five-Year Plan”、2020年10月29日。
  3. 習近平国家主席は2020年5月、「国内循環」、つまり国内の生産・分配・流通・消費という循環を成長の主な原動力として推進する「双循環モデル(dual circulation model)」を提唱しました。ロイター、2020年9月16日。
  4. ブルームバーグ、2020年11月7日現在。

 

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