日本の金融政策正常化:日銀はどこまで金利を上げるのか?

エリカ・カミレリ、CFA
シニア・グローバル・マクロ・アナリスト
マルチ・アセット・ソリューションチーム

日本銀行(日銀)は2025年1月24日、政策金利を25ベーシスポイント引き上げ、0.50%程度としました。これは17年ぶりの高水準であり、日銀がその見通し、すなわちインフレ率は賃金上昇を背景に目標の2%近辺で推移するとの見通しについて、自信を深めていることを示しています。ほぼ1年前に始まった金融政策正常化のサイクルにおいて、今回は3回目の利上げとなります。そして今、エコノミストや投資家の多くがただ知りたいと考えているのは、日銀がどこまで金利を引き上げるのかです。

日銀による金融政策正常化:全速力で金利を引き上げるのか?

2025年1月の利上げで日銀の利上げが最後になる可能性は低いというのが、私たちの見解です。日本の金融政策が今後も正常化を続けるという見方は、まさに私たちの最も確信度の高いマクロ経済テーマの1つです。そして、過去数年にわたる超緩和的な金融政策が終わった今、日銀は中立金利まで政策金利を引き上げようとしています。私たちの基本シナリオでは、日銀は2025年内にもう1回、そして2026年にさらに2回の利上げを行い、最終的には政策金利を少なくとも1.25%まで引き上げるとみています。市場も2025年後半にもう1回分の利上げを織り込み、私たちの年内の金利見通しをようやく反映する格好となりました。

現時点では大半が金融緩和の局面にある世界の先進国中央銀行のなかにあって、今後2年でさらに数回の利上げが見込まれている日銀は、例外的な存在であると言えるでしょう。日銀は2022年にも今回と同じように世界のトレンドに逆行し、他の主要中央銀行が粘着性の強いインフレを抑えようと利上げに踏み切る中、利上げを行わない選択をしました。

現時点では大半が金融緩和の局面にある世界の先進国中央銀行のなかにあって、今後2年でさらに数回の利上げが見込まれている日銀は、例外的な存在であると言えるでしょう。

利上げに有利な経済環境

日銀はこの先も徐々に金利を引き上げていくことが可能であり、そうするだろうと私たちが考える主な理由は、以下のとおりです。簡単に言えば、日本国内の経済環境は足元改善しており、日本は過去数十年にわたるデフレスパイラルからようやく脱却できると考えているためです。

・日本の賃金上昇率は32年ぶりの高水準に近づきつつあり、各労働組合は2025年の春闘においても5%の賃上げを求めていく意向であるとみられます。

・特にここ最近では、日銀が目指す「物価と賃金の好循環」が実現しているとみられ、総合インフレ率とコアインフレ率はいずれも、2025年と2026年を通じて日銀の目標と同等、あるいはそれ以上の水準を維持すると予想されています。

・日銀は実際、1月に2025年度の消費者物価(CPI)上昇率の見通しを上方修正しており、総合インフレ率を2.4%、コアインフレ率を2.1%と予想しています(いずれも政策委員見通しの中央値)。

・日銀短観や購買担当者景気指数(PMI)などの経済活動に関する足元の先行指標は、国内需要の勢いが堅調であることを示しており、物価には当面上昇圧力がかかると考えられます。

2025年春闘が賃金の持続的な上昇につながる可能性

出所:連合、総務省統計局、マクロボンド、マニュライフ・インベストメント・マネジメント、2025年1月22日現在。消費者物価指数(CPI)は、各都市の消費者が購入するモノやサービスの価格等を総合し、平均的な物価の変動を時系列で測定した指数です。指数に直接投資することはできません。

日銀の金融政策に影響し得るその他の要因

国内の良好な経済環境のほかにも、日銀の政策スタンスを今後よりタカ派的なものにし得る要因はあります。

一例を挙げると、金利をさらに引き上げることは、依然として割安な水準にある日本円の上昇を後押しする可能性があります。日本円は現在、ほぼ30年来の安値圏にあり、輸入物価の高騰を通じて消費者物価を押し上げる要因となっています。また、日銀による実証研究1は、長く続いた超低金利時代も意図した成果のすべては達成できていないとし、現在は金融政策の正常化が必要であると強調しています。超低金利政策は、多少のプラス効果を経済に与えた一方、債券市場の機能低下や多くの金融機関の利ざや縮小といったマイナスの影響ももたらしました。

より戦術的な視点でみれば、日銀の金融政策は、米国の金融政策やグローバル資本市場の動向にもある程度影響される可能性があります。米連邦準備制度理事会(FRB)が大幅な利下げサイクルを開始すれば、日銀の利上げには逆風となる可能性がありますが、ここ数ヶ月のFRBの姿勢はそれほどハト派的ではなく、日銀はより利上げを続けやすい環境にあると言えるでしょう。また、世界貿易をめぐる不透明感から市場のボラティリティが高まる可能性があり、日銀の警戒心やリスク回避的な姿勢を考えれば、利上げを続けられないリスクもあります。ただし、米国の関税が日本に与える影響は、中国やヨーロッパ、そしてカナダよりも小さいとみています。

投資へのインプリケーション:日本の資産クラスにおけるロングとショート

・日本円のロング:日銀が追加利上げを行う可能性は高く、日本円は短期、中期、長期のすべてで、世界の他の通貨に対して上昇するとみています。例えばファンダメンタルズの視点からも、足元の日本円の水準は過小評価された状態にあり、投資家に魅力的なリスク・リターンを提供し得るものと考えます。

・日本国債のショート:日本国債の利回りは既に持続的な上昇基調にありますが、2025年と2026年を通じてさらなる上昇の余地があるとみています。特に、日銀の金融政策に関するエコノミストやアナリストの見通しが、私たちと同じように2026年末までに少なくとも1.25%までの利上げを予想するようになれば、利回りが上昇する可能性は高いと考えます。

・為替ヘッジなし日本株のロング:日銀が金融政策の正常化を進めていることに加え、企業においても好ましい改革や収益拡大の動きがみられることから、日本株に対しては長期戦略的に強気の見通しを維持しています。また、日本円の上昇見通しを理由に、株式については現在、為替ヘッジありよりも為替ヘッジなしを概ね選好しています。

日銀が追加利上げを行う可能性は高く、日本円は短期、中期、長期のすべてで、世界の他の通貨に対して上昇するとみています。
  1. https://www.weforum.org/stories/2024/03/japan-ends-negative-interest-rates-economy-monetary-policy/

リスクと手数料については、以下をご覧ください。
https://www.manulifeim.com/institutional/jp/ja/jp-risks-and-fees-guide

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