グローバルなカーボン市場の十全性向上に向けた進展

エリック・クーパーシュトローム
マネージング・ディレクター
インパクト投資およびナチュラル・クライメート・ソリューション

ベアトリス・ ザバリス
アソシエイト・ディレクター
インターナショナル・カーボン・マーケッツ

過去数十年間、世界の科学コミュニティーでは、人類の活動が地球温暖化の原因であるという点で意見がほぼ一致しています。より広範に解決策を求める中で、企業や投資家、政府が持続可能な排出ネットゼロへの移行を実現するための大きな可能性を持つ手段として、カーボン市場が創設されました。

ネットゼロへの道は絶対ゼロを目指すことからはじまる

カーボン市場は気候変動に対する万能薬ではありませんが、持続可能な未来への移行を手助けできる手段です。世界の企業や投資家、政府、市民は、脱炭素と直接的な削減を他のあらゆる気候変動緩和策に優先して実行しなければなりません。排出絶対ゼロに可能な限り近づくことこそが目標であり、その上で、削減が困難で高コストで技術的にも複雑な最後まで残る排出を、十全性の高い方法で中立化あるいはオフセットすることになります。さらに、セクターによっては排出削減に何年もかかる可能性があるため、補償のためには、気候変動目標を上回ることを目指す必要があります。補償とは、ネットゼロへの移行過程で排出のオフセットのためにカーボン・クレジットを購入することで、炭素排出者が気候目標を達成したことにはならないものの、さらなる排出削減を進めるためには重要です。

上記は例示のみを目的としています。

カーボン市場の進化

カーボン市場はこの数十年間に進化を遂げ、エネルギー源からの排出を代替する再生可能エネルギーや、森林管理の改善や植林、森林再生、森林破壊の回避(森林減少・劣化の抑制による排出削減、REDD+)といったネイチャー・ベース・ソリューションなど、カーボン・クレジットの創出手段として様々な方法が登場しています。高精度テクノロジーの使用や厳格化のための基準の強化はすぐに実現できることではなく、こうした認証機関や幅広いカーボン市場参加者の取り組みは、正しい方向性であると考えています。私たちは、2023年3月に公開予定のIntegrity Council for the Voluntary Carbon Market(IC-VCM)のコア・カーボン原則(CCP)や、ボランタリー・カーボン市場十全性イニシアティブ(Voluntary Carbon Market Integrity Initiative、VCMI)のClaims Code of Practice、SBTイニシアチブ(SBTi)のセクター別ネットゼロ・ガイダンスなど、こうしたトレンドを支える世界のカーボン市場の動向に注目しています。カーボン市場はこれまでまとまりを欠き不透明でしたが、特定のタイプのカーボン・プロジェクトにおいて透明性、質、十全性、標準化の向上が急速に進んでいます。

一部の炭素排出削減基準の十全性に対する批判や、過剰なクレジット発行に対する主張により、気候に関する主張が具体的で科学的に裏付け可能であるためにプロトコルを継続的に厳格化することの重要性が浮き彫りになりました。しかし、厳格化に向けた取り組みは進んでいます。例えば、高精度テクノロジーやリモート・センシングによるモニタリングや検証、報告のほか、検証者トレーニングや監査、プロジェクト・レビューの改善、過剰なクレジット発行リスクへの対処を目的としたダイナミックなベースラインの導入など、植林や森林再生の新たな手法が開発されています。歴史の浅いカーボン市場は、特定のタイプのカーボン・プロジェクトにおいて透明性、質、標準化が急速に進展しており、プロジェクトのプロトコルによって定量的・客観的に立証可能な方法で気候に関する主張を確実に測定しています。

カーボンに関する重点課題

マニュライフ・インベストメント・マネジメントの森林投資は、木材の価値を最大化するため、伐採量の削減、森林在庫の改善、伐採周期の長期化など現状(BAU)と比較して意図的に炭素を追加吸収する森林管理の改善(IFM)に加え、植林・森林再生(ARR)プロジェクトに重点を置いています。また農地投資では、比較的新しい炭素プロジェクトの手法をテストするため、土壌炭素のパイロット事業を検討しています。IFMプロジェクトでは、より現実的な観点に立った「反事実的なベースライン」を設定し、それに基づいて、BAUの活動と比較した炭素隔離の増加分を排出回避(Avoidance)カーボン・クレジットとして創出することができます。これに加えて、森林の成長能力の向上による炭素除去(Removal)クレジットが創出されます。私たちは投資家に代わって、コンプライアンス市場とボランタリー市場の両方のカーボン市場でIFMプロジェクトとARRプロジェクトを管理しており、LiDARなど、森林在庫や炭素吸収量の測定、報告の正確度を向上させる新技術を採用しています。

マニュライフ・インベストメント・マネジメントのカーボン原則

マニュライフ・インベストメント・マネジメントは明確で十全性の高いカーボン原則を一貫して提唱してきました。このカーボン原則は、IC-VCM CCPに整合しており、質の高い気候変動緩和策を徹底するため進化する国際的なベスト・プラクティスに照らして継続的に見直されています。

IFMプロジェクトでは、地域やプロジェクトの資産管理の実態と現実的な観点で代替できる木材伐採シナリオに基づき、保守的なベースラインを設定しています。40年近くにわたり森林の持続可能な管理を続けてきた経験と投資から物件管理まで垂直統合された管理チームにより、現地の伐採機会に関する深い知識を有し、多くの認証機関のプロトコルよりも保守的なベースラインを設定することができます。私たちは、IFMプロジェクトの最初の数年間に利用できる追加的な排出回避クレジットを取得せず、現地の森林管理手法をより正確に反映させるため、排出回避クレジット創出のタイミングを積極的に先延ばししています。そして、カーボン・クレジットの販売や分配におけるグリーンウォッシュを防ぐため、私たちが創出したカーボン・クレジットの購入希望者からの情報開示請求に応じ、具体的な気候変動関連の目標とその進捗に関する具体的な気候インパクトの情報を提供しています。十全性を維持してレピュテーションの棄損を回避することはフィデューシャリー・デューティの重要な要素であると考えており、これまでの経験から、より質の高いクレジットは市場で価格プレミアムが付くため、創出量の少なさを補って余りあると考えています。環境と投資家のために実質的かつ持続的な気候変動緩和策を実現する十全性の高いカーボン・プロジェクトに、今後も引き続き真摯に取り組みます。

審査を見込み、カーボン・スタンダード向上の機会を活かす

急成長している比較的新しい市場は、検査なしに効果的に成熟することはできません。投資家の信頼を築くために不可欠なカーボン・スタンダードを精査するために、仲介業者、取引所、コンサルタント、格付機関、科学的検証者のエコシステムが出現しています。カーボン市場の慣行と参加者が精査されることは単に避けられないというだけでなく、それがスタンダードに恩恵をもたらし、生態系および投資の価値を生み出すのであれば歓迎すべきものです。重要なこととして、気候ファイナンスには追求する成果が現実的に達成可能であるとの信頼感が必要であり、カーボン市場への需要の急速な拡大には、信頼できる保守的で経験豊富なカーボン・クレジットの供給者が必要とされています。カーボン市場が高い十全性の実現に向けて進み続ける中で、私たちも継続的にカーボンに関する手法を強化し、適切な行動を実行していきます。

※本稿の一部は「Portfolio Institutional」に掲載されています。

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マニュライフ・インベストメント・マネジメントについて

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