自然への投資:「重要なこと」を測定する

オリバー・ウィリアムズ、CFA
グローバル・ヘッド
農地投資部門

ブライアン・カーノハン
チーフ・サステナビリティ・オフィサー
プライベート・アセット部門

ブランドン・ルイス
アソシエイト・ディレクター
森林農地部門

森林・農地が地域の環境やコミュニティに与えるプラスまたはマイナスのインパクトについて意味ある測定を行う方法とは?

・森林および農地は投資家がサステナビリティ、インパクト、炭素、気候の目標を達成する重要な機会となります。

・こうした目標を達成するための投資家の信頼を得るには、これらの自然資本投資の管理について継続的にトラッキングし、透明性の高い方法で報告することが求められます。

・信頼性、経験、協働力により、資産運用会社は森林農地の持続可能な管理を実践し、実際のポジティブな変化をもたらす実績を一貫して測定することができます。

国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成における、森林・農地投資の重要な貢献について認識が高まっています。その目標達成には、森林・農地投資がもたらす恩恵を定義し、一貫性、検証可能性、透明性の高い方法で測定、報告する必要があります。森林・農地の運用会社は、統合された持続可能な管理と再生型農業の手法が価値を生み出し、環境・社会・ガバナンス(ESG)に望ましい成果をもたらす結果につながることを、信頼できる第三者機関の認証を通じて示すことができます。金融資産の価値は優れたスチュワードシップと緊密に結びついており、お客さまの投資パフォーマンスと地球の共通の未来がそれ次第であることは、マニュライフ・インベストメント・マネジメントの経験から明らかです。

価値を創出するスチュワードシップ

サステナブル投資に対する関心は飛躍的に高まっています1。サステナビリティを価値創出の基本的な原動力と見る人がいる一方で、資産運用会社が自社商品を差別化するために使用するうわべだけのラベルととらえる人もいます。

この急成長しているセグメントでアピールすることに力を注ぐあまり、それがグリーンウォッシングと呼ばれる過剰な主張につながっている可能性があります。しかし、サステナブル投資が実践され、適切に報告されれば、気候変動、自然の喪失、社会経済的な不平等を軽減することができます。

何と比較して持続可能なのか

運用業界は、森林や農地などの生物学的実物資産は、ポートフォリオの分散、インカム、キャピタル・ゲインといった恩恵だけでなく、炭素隔離や農村での雇用創出など、環境と社会にとって具体的な有用性があることから、投資する価値があることに気づいています。こうした有用性には、収益化して投資リターンを向上させることができるものもありますが、収益化できない場合でも幅広く社会に恩恵をもたらします。

A farmer on a tractor cuts alfalfa to use as a cover crop. Cover crops are grown for the protection and enrichment of the soil, generally established between the harvest of a main crop and the sowing of the next. Cover crops are not harvested but returned to the soil.

マニュライフ・インベストメント・マネジメントは数十年にわたって持続可能な再生型農業を実践しており、第三者機関の認証を含め、この手法を検証し報告する指標を開発して継続的にトラッキングしています。投資家は、こうした手法が気候変動をはじめとする環境問題に対処する自然由来のソリューションにどの程度貢献するかを評価する手段として、この種の測定値をますます重要視するようになっています。

しかし、より広い視点ででは、サステナブル投資の名の下にどのような活動に資金が流入しているのでしょうか。また、どうすれば真に環境に優しいグリーンな活動とグリーンウォッシングとを識別できるのでしょうか。欧州連合(EU)のタクソノミー規制の報告書の問題や、炭素市場で繰り広げられる何がサステナブル投資で何がそうでないかという論議に見られるように、この問いに答えることは容易ではありません。

結局のところ、サステナブル投資の定義の核心となる根本的な問いは、何と比較して持続可能なのか?です。サステナブル投資を「サステナブルでないもの」と定義する人もいます。最も重要なことは正確さや数字、または分析能力ではないかもしれません。むしろ重要なのは、それが重要で意味があるか、結局のところ何を意味し、何を意味しないかを問うことです。

全てを測定できるわけではない。また全ての測定が重要であるとは限らない

では、森林・農地が地域の環境やコミュニティに与えるプラスまたはマイナスのインパクトについて意味ある測定を行うにはどうすればよいでしょうか。広く使用されている基準として以下が挙げられます。

  • 管理面積
  • 第三者認証を取得した面積
  • 栽培されている食物の量
  • 各国または地域のGDPへの寄与率または寄与額
  • 創出した雇用数
  • 燃料または水使用の削減量
  • 炭素隔離した量
  • 売却したカーボン・クレジットの量

どの項目も役立つ可能性はありますが、それ自体で真のサステナビリティを追求することはできません。真のサステナビリティと判断されるものは、指標を適切に用いて、何が重要で、何が現在と将来の両方にインパクトを与えるかということについて洞察を提供するものです。重要業績評価指標(KPI)は、サステナビリティ・プログラムのこうした目標に向けた進捗を評価する上で役立ちます。

指標は単なる測定値に過ぎません。重要業績評価指標(KPI)は意味のある測定値です。

A ploughed field demonstrated conservation tillage, a tillage and planting system covering 30% or more of the soil surface with crop residue after planting, to reduce soil erosion by water.

実際にどのような違いがあるのでしょうか。その違いは、生の数字とパーセンテージの違いに関係しているかもしれません。例えば、持続可能な手法を実証する第三者認証を取得した土地の面積はひとつの指標ですが、より意味があるのは、そのマネージャーが保有する土地に占める第三者認証を取得した面積の割合です。管理面積20,000エーカーのうち、19,000エーカーに認証を取得している(95%)マネージャーAは、200万エーカーのうち認証を取得している土地が150万エーカーであるマネージャーB(75%)よりも持続可能な運営を行っていることになります。同一条件で比較すると、Bの方がAよりもはるかに改善余地があるということです。

水、温室効果ガス(GHG)排出量、生物多様性についても同様です。

  • 水 : 節約された水の絶対量は、マネージャーのウォーター・フットプリントの削減率ほど重要な意味はありません。
  • GHG排出:回避、削減または除去されたCO2の量は、マネージャーのGHGフットプリントの削減率ほど重要な意味はありません。
  • 生物多様性:管理地にある絶滅危惧種の数は、生息地保全計画ほど重要な意味はありません。

サステナブル投資では、運用会社や企業が行う投資が具体的にどのSDGs目標に寄与するかを示すことが一般的になっています。しかし、列挙することは測定することとは違います。SDGsに結びつけることは投資のインパクトの可能性を意識させますが、SDGsに言及するだけでインパクトを与えることはできません。採用するSDGsの項目を増やすことが必ずしもインパクトを大きくするわけではありません。まず、その指標が運用会社にとってどの程度重要であるかを考慮しなければなりません。最初に森林・農地投資事業に最も重要なSDGsを選定し、それぞれに重要度を割り当てることで、各目標への進捗度をより適切に測定することができます。

こうしたアプローチが難しそうに思われるのは、それが実際に難しいからです。SDGsへの実際の寄与度について意味ある測定を行う難しさを解決する1つの手段は、第三者機関のサステナビリティ認証プログラムです。

第三者機関のサステナビリティ認証プログラムはセクター別に重要性を定義し、各セクターに適した持続可能な方法で運営するための明確な原則と目標を設定し、その原則と目標を達成するために利用できる多様な実践手法を特定し、そうした手法を実際にどの程度遵守しているかを評価します。認証の外部監査プロセスにより、サステナビリティの主張の厳密性と検証可能性が保証されます。認証を受けたKPIのパーセンテージは、結果の検証を通じ、データそれ自体を目的として提供される大量のデータよりもはるかに重要な意味を伝えることができます。

個々の企業がどのような統計や指標を報告するか、その統計を自社のブランド構築にどのように利用しているかだけでなく、企業が今何を実行し、これまで何を実行してきたか、そして将来何をすると言っていて、それが信用できるかどうかを検討することが不可欠です。第三者認証は、森林および農地投資運用会社のサステナビリティの実践とその投資がもたらす真のインパクトについて貴重な情報を投資家に提供する上で大いに役立ちます。

サステナビリティへのコミットメントを最もよく示すものは何か

統合された運用管理は利害の一致、資産の保護、情報の安全性を促進します。また、継続的に価値を創造する文化も醸成します。マニュライフ・インベストメント・マネジメントのサステナビリティへのコミットメントを最も強く示すもののひとつは、私たちが管理する土地に占める、第三者認証を取得済みの土地の割合です。マニュライフ・インベストメント・マネジメントは継続的な改善項目を定めた成果ベースのサステナビリティ基準を選好しています。持続可能な林業イニシアチブ(Sustainable Forestry Initiative、SFI)や森林管理協議会(Forest Stewardship Council、FSC)といった第三者機関の森林認証プログラムは1990年代半ばに登場し、その後進化を遂げて森林投資における一般的な慣行となりました。現在マニュライフ・インベストメント・マネジメントは、保有する森林の全てに、少なくとも1つの信頼できる認証を取得しています。森林投資では認証の取得が可能ですが、農地投資には最近まで取得できる認証がありませんでした。

上記の各認証プログラムの詳細については、Sustainable Forestry Initiative2、Forest Stewardship Council3、Leading Harvest4のウェブサイトをご覧ください。

マニュライフ・インベストメント・マネジメントは同業者や非営利団体と協働し、Leading Harvest Farmland Management Standard5を新たに開発しました。これは、成果ベースのサステナビリティ基準で、あらゆる種類の農地を対象とした包括的な保証プログラムの一環として、持続可能な農地管理を最適化するために設計されました。2021年には、自社の米国農地プラットフォームの100%、30万エーカー超で、土壌の健全性と生物多様性を改善し、炭素隔離を増加させることが出来る再生農業手法に重点を置いた計画的かつ体系的な取り組みを保証する第三者機関の認証を取得しました6。マニュライフ・インベストメント・マネジメントのコミットメントは、米国での100%の認証取得を維持し、グローバルの農地ポートフォリオ全体で認証割合を100%まで高めることです。

成功とは継続的、重要で意味のある改善と定義

マニュライフ・インベストメント・マネジメントは、森林・農地投資で実践される持続可能な管理のレベルに対する、こうした第三者機関の認証の発展と投資家の関心を歓迎しています。認証が全ての問題を解決する万能薬だとは考えていません。国連の報告によると、世界の森林の31%を占める生産用に指定された森林(11.5億ヘクタール)のうち、2019年時点で、持続可能な管理の認証を受けている土地はわずか37%(4億2,600万ヘクタール)にとどまり、世界の森林の11%に過ぎません7。農地のグローバルな認証はまだ統一されておらず、認証に関する統計も限られています。私たちは、グローバルな認証の促進を支援するため、Leading Harvestプログラムを支持しています。急速な進歩が続き、現在、第三者認証はサステナビリティを保証する役割を果たしています。認証を取得した森林や農地に投資することで、投資家はポジティブなインパクトをもたらすサステナブル投資を行っていることを確信できます。

 

※本レポートのオリジナルは、Agri Investor(2022年4月1日)に掲載されたものです。
  1. https://www.reuters.com/business/sustainable-business/sustainable-investments-account-more-than-third-global-assets-2021-07-18/
  2. https://forests.org/
  3. https://us.fsc.org/en-us
  4. https://www.leadingharvest.org/
  5. https://www.leadingharvest.org/standard
  6. 2021年5月17日現在。第三者へのリース資産と自社運営する資産を含む。農地投資グローバル・ヘッドのオリバー・ウィリアムズはLeading Harvestの理事会の現議長。Leading Harvestに関する詳細については、www.leadingharvest.org/aboutをご覧ください。
  7. https://www.fao.org/3/ca9825en/ca9825en.pdf

リスクと手数料については、以下をご覧ください。https://www.manulifeim.com/institutional/jp/ja/jp-risks-and-fees-guide

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