農地投資によってインフレ率と金利の上昇局面を乗り切る

ウェイイー・ツァン、Ph.D.
シニア・アグリカルチュラル・エコノミスト

  • インフレ圧力は農家の収益性の足かせになることが予想されますが、コモディティ価格は歴史的な高水準を維持しています。
  • 農地投資は様々な景気サイクル局面を通じて安定した底堅いリターンを上げています。
  • 過去数十年の金利環境の変化と市場のボラティリティ上昇を背景に、投資家の関心は相対的に低いリスクでインカムを創出する資産クラスに向かっています。

新時代への対応:金融引き締め局面におけるインフレ圧力の上昇

インフレ圧力の上昇と金融引き締め策への転換を受けて、世界経済と金融市場はこの数ヶ月にボラティリティが著しく上昇しました。米国では2022年1月と2月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比+7.5%と+7.9%に達し、消費者物価は2ヶ月連続で40年ぶりの高水準へと大幅に上昇しました。食品やエネルギーなど価格変動の大きい項目を除くコアCPIも2022年2月に年率+6.4%に上昇しました。足元の景気過熱を受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)は2018年以来初の利上げを行い、ゼロ近辺の金利環境からの脱却を決定しました。局地的な地政学的紛争など別のリスク要因も加わり、さらなるインフレ高進と追加利上げが予想されます。

足元のインフレ率は40年ぶりの高水準だが、前回のピークを大きく下回る
CPIとコアCPIの前年同月比変動率

出所:FRED、2022年3月10日現在。CPIは消費者物価指数。

現在のように不透明な時代には、農地投資のリターン、インフレ、金利の関係を歴史的観点からとらえ、将来を展望する必要があります。

FRBは2022年3月に利上げを実施
米国フェデラル・ファンド実効金利(日次)

出所:FRED、2022年3月23日現在

農地投資は堅実な実質リターンを実現:過去の考察

この30年間、資産クラスとしての農地は投資家の注目を集めてきました。米国不動産投資受託者協会(NCREIF)の農地指数 (NFI) は、民間が所有および管理する米国農地の投資パフォーマンスを評価するために初めて構成され、米国農地投資のリターンを適正に示す代表的指数として広く認められています。1991年にNFIの算出が開始されて以来、米国農地投資は年率平均+10.7%のリターンを上げ、同期間中1のS&P 500 Indexの12.6%、MSCI World Indexの8.0%で代表される米国や世界の株式市場の平均リターンと同等のパフォーマンスを実現しました。農地投資はまた、過去30年間の様々な期間に安定したパフォーマンスを上げ、ITバブル前(1991~1999年)に年率+8.4%、世界金融危機までの期間(2000~2008年)に年率+14.4%、世界金融危機後の長期にわたる回復期(2009~2021年)に年率+9.8%のリターンを達成しました。過去30年間の年間平均インフレ率が2.4%であったことと比較すると、農地投資は平均して良好な実質リターンを投資家にもたらしています。

農地投資は1991年以降の様々な期間にプラス・リターンを達成
NCREIF農地インデックスの平均リターン

出所:NCREIF農地インデックス、2021年12月31日現在。指数に直接投資することはできません。

投資家は、インフレ圧力から投資リターンを守るため、資産クラスにインフレ率を上回るリターンを求めており、農地投資は歴史的にインフレ・ヘッジに適した資産と見なされてきました。通常、農地投資のリターンはインフレ率と同じ方向に動きます。これは、1991年から2021年までの期間中のNFIのリターンとCPIに示されるインフレ率との間に0.06の緩やかな相関性があることに示されています。

農地投資のリターンは歴史的にインフレ率と正の相関を持つ
NCREIF農地インデックスとCPIインフレ率との期間別の相関

出所:NCREIF農地インデックス、2021年12月31日現在。指数に直接投資することはできません。

各期間の農地投資とインフレ率の相関は、農地投資のリターンとインフレ率の関係を表しています。最初の2つの期間(1991~1999年と2000~2008年)には、農地投資のリターンはインフレ率と正の相関を示し、相関係数はそれぞれ0.20と0.28です。この2つの期間中、経済は好調なペースで拡大し、CPIが年率2.5%を超える中で、農地投資は着実なリターンを上げました。世界金融危機後の期間(2009~2021年)の相関性は負であり、これが、NFIの全期間を通した相関を引き下げています。

農地投資のリターンとインフレ率の相関性パターンの変動

農地投資とインフレ率との相関のパターンは、移動分析から明らかなように、歴史を通じて変動しています。相関は概ね正となっていますが、期間によってはパターンが崩れ、負に転じています(世界金融危機後の期間など)。

農地投資のリターンとインフレ率との相関性は正に偏った変動的パターンを示す
NCREIF農地インデックスのリターンとインフレ率

出所:FRED、2022年3月10日現在。CPIは消費者物価指数を表す。

2009年から2021年までの期間が全般的に負の相関性となったことと、同期間中に移動相関が2回負に転じたことは、農地投資のリターンとインフレ率が別方向に動いたことに起因すると考えられます。世界金融危機後の景気回復は力強さに欠け、インフレ率は13年中7年で2%の目標を下回りました。一方、同期間中の農地投資のリターンは好調で、特に2011年から2015年には5年連続でNFIが2桁のリターンを達成しました。農地投資のパフォーマンスが好調となった一方で景気回復は勢いを欠く対照的な結果となったことが、同期間の相関が負となる要因となり、1991年から2021年までを通した正の相関性を弱めました。しかし投資家の観点から見ると、負の相関性は、インフレ率が目標を下回る中で低迷する経済をアウトパフォームする資産クラスの能力と捉えることができます。

過去の高インフレと現在の環境との比較

過去の高インフレ局面と現在の状況とを比較することで、インフレ要因の類似点と相違点を調べ、それが資産のリターンに与える影響について検証できます。過去の高インフレ局面は1979~1981年で、CPIの年率は平均11.7%でした。この時期のインフレ高進の要因と現在のインフレ要因とは異なります。現在、主なインフレの主な要因は、エネルギー価格の上昇とサプライチェーンの混乱に起因するガソリン価格、中古車、公共料金であり、それがインフレ率全体を大幅に引き上げています。対照的に、過去のインフレ局面では、エネルギー、コモディティ、食品を含む幅広い項目で物価が上昇しました。

エネルギーとサプライチェーンの問題が足元のインフレに
極めて大きな影響を与えている
CPIは特定の物価項目で上昇、1979~1981年(平均)と2021年

出所:Macrobond、2022年3月15日現在

インフレ率の上昇とその潜在的な影響

インフレ圧力の上昇は、向こう1年の農家の収益性の足かせとなることが予想されます。米国農務省の2022年度のトウモロコシと大豆の生産コスト予想によると、燃料およびエネルギー(7.4%)、化学薬品(6.3%)、肥料(9.5%)の投入コストの増加が見込まれます。生産コスト全体のうち、これら3つの費用項目は合わせて、2020年のトウモロコシ生産コストの59%、大豆生産コストの47%を占めています。さらに、ロシアによるウクライナ軍事侵攻とロシアが肥料の主要輸出国であることから、肥料価格の上昇も予想されます。予想されるコストが過去最高に達している一方で、コモディティ価格も歴史的な高水準を維持しています。コモディティ価格の上昇と作付面積の拡大はコスト増加の緩衝要因としてマイナス影響の一部を相殺し、農家は比較的堅調なマージンを確保できると予想されます。

燃料、肥料、化学薬品の価格上昇による生産費用の増大
米国のトウモロコシと大豆の生産コスト増加率、2020~2022年(予想)

出所:Macrobond、2022年3月15日現在

数年間にわたる変化:金利と農地投資のリターンの関係

米国では、2022年から2023年にかけて数回の利上げが行われて2023年末までにフェデラル・ファンド金利(FF金利)が2%に達すると予想されます。金利と農地投資のリターンとの関係は複雑で、時間の経過とともに変化し、期間ごとの平均を調べると、両者の間に直線的関係はないように見えます。金利は1991~1999年の期間の平均5.1%から、2000~2008年の3.3%まで下がった一方、NFIが示す農地投資のリターンは年率8.4%から14.4%へと年率6%上昇しました。しかし、世界金融危機後の期間(2009~2021年)に入ると、金利と農地投資のリターンはいずれも年率平均ベースで低下しています。

金利と農地投資のリターンの不均一な関係
NCREIF農地インデックスのリターンと金利の期間別平均

出所:FRED、2022年3月23日現在

リターンのデータを前に示した期間に分けて分析すると、相関のパターンから農地投資のリターンと金利の相関は一貫していないことも確認されます。1991年から2021年までの期間の全般的な相関性は-0.05とやや負の相関を示していますが、世界金融危機後の期間に-0.50と大幅な負となったことが負の相関性を強めました。世界金融危機後はFRBが極めて緩和的な金融政策を続けたことから、実効FF金利はゼロ近辺にとどまった一方で、農地投資は農産物と農地への力強い需要を背景に上昇しました。農地投資のリターンが金利の変動に追随する反応を示さなかったことは、農地投資が様々な景気サイクル局面を通じて安定した底堅いリターンを実現することの証左です。

農地投資のリターンと金利の相関性は時期によって異なる
NCREIF農地インデックスのリターンと金利

出所:FRED、2022年3月23日現在

金利上昇は多くの場合、資産価値の低下につながります。しかし、資産評価額を変化させる要因は他にもあり、特に農地の場合は他の要因が影響を及ぼします。平均的な金利水準とNFIの上昇を5年移動平均値で比較すると、理論上の負の関係から興味深い乖離を示すパターンが見られます。一方で2011~2019年の期間のように、金利と農地評価額の上昇が逆相関を示す時期があれば、他方で金利と農地評価額の上昇率が同方向に動く時期もあります。例えば、2004~2010年の期間中、金利と評価額の上昇率の5年移動平均値は同方向に動きました。通常の理論から逸脱したこの観察結果は、土地の価値上昇を決定づける要因が他にもあることを示唆しています。

農地評価額の上昇率と金利の関係はまちまち
金利とNCREIF農地インデックスの上昇率の5年移動平均

出所:FRED、2022年3月23日現在

農地市場は供給と需要の基本的な経済概念に基づいて動きます。資産クラスとして農地への関心が高まると、農地資産の価値は上昇傾向を示します。金利とNFIの構成農地数の5年移動平均を比較すると、投資家の農地への関心の高まりが明らかになります。金利が1990年代の平均4~5%から世界金融危機直後に底打ちするまで低下した一方、NFIの構成農地数は1991年末の設定時の197件から2021年第4四半期(10~12月期)の1,260件へと6倍以上に増加しました。この30年間における金利環境の変化と市場のボラティリティ上昇は、投資家にインカムを創出する低リスク資産クラスの追求を促す要因となりました。

機関投資家の農地投資への関心が高まる
金利とNCREIF農地インデックスの構成農地数の5年移動平均

出所:FRED、2022年3月23日現在

インフレ高進と金融環境の変化の新たな時代:足元の課題にもかかわらず農地投資の見通しは良好

インフレと局地的な地政学的リスクは農業生産と収益性に短期的に影響を及ぼすと予想されます。肥料、燃料、エネルギーといった主要な農業生産投入物の価格上昇は農業の利益を圧迫する要因になると予想されますが、農産物価格の上昇とサプライチェーンの状況改善によって一部相殺されると思われます。全体的に見ると、インフレ圧力は高まっているものの、農地投資は過去に投資家をインフレから保護してきた実績があります。農地投資は、1991~2008年の期間のCPIとの正の相関に見られるように、インフレ率を上回るリターン(実質リターン)を提供することが可能です。さらに、世界金融危機後のような低インフレ率が続き、農地投資のリターンがインフレと負の相関を示した期間にも農地投資は継続的に投資家に堅調なリターンを提供しました。FF金利が2023年末までに2%に到達すると予測されるにもかかわらず、農地投資は上昇の勢いを維持することが予想されます。過去のパフォーマンスは、金利環境が単独で農地投資のリターンを決定づける唯一の要因ではなく、様々な金利水準の下でこの資産クラスへの関心が高まっていることを示しています2

農地が今後も魅力的な資産クラスであることに変わりはありません。環境や社会的な側面の投資目標など、投資家が非財務的な目標をより重視するようになっていることは、新たな農地の需要層を生み出しています。農業生産に技術革新が取り入れられて、農業は自然による気候問題の解決策として重要な役割を果たすことが可能となり、農地投資家にさらなる投資機会を提供し、新時代の農地投資に新たな熱意を吹き込むものと思われます。

  1. Macrobond、2022年3月1日現在。
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