環境再生型農業:定義、実践、インパクト

ブレント・マッゴーワン
マネージング・ディレクター
グローバル・ヘッド・オブ・アグリカルチュラル・オペレーションズ

ウェイイー・ツァン、Ph.D.
アソシエイト・ディレクター
アグリカルチュラル・エコノミクス

ハンナ・バーカン
マネージャー
インパクト投資およびナチュラル・クライメート・ソリューション

天然資源がますます不足する中、増加する人口に食料を供給するには持続可能なソリューションが必要であり、環境再生型農業は重要な役割を果たすことができるかもしれません。投資家にとって、グローバルに分散された農業資産のポートフォリオを構築し、持続可能な形で運用することは、競争力のあるリスク調整後リターンを生み出すと同時に、農地が所在する周辺地域にとどまらず、農作物を出荷するより幅広いグローバル市場に対し、社会経済的・環境的利益をもたらすことができます。

環境再生型農業とは

私たちが考える環境再生型農業は土壌の健全性を中心とした農地管理の枠組みであり、土壌の健全性と生産性の目標が農地管理の意思決定のガイダンスとなり、ひいては農業生産、生物多様性、大気中の炭素の土壌への吸収の最適化につながるものと定義しています。この農業への総合的なアプローチは、経済的リターンを最適化し、土地管理の継続的な改善を促進し、資源を保護することを目的としています。

環境再生型農業は今に始まったことではない

環境再生型農業という言葉が一般的な投資テーマになるずっと以前から、30年以上にわたる自然資本への投資経験を持つマニュライフ・インベストメント・マネジメントは、農地運用に環境再生型農業を取り入れてきました。

現在、私たちは運用資産の100%に再生型農法を採用しています。さらにその4分の3は、4つ以上の異なる再生型農法を採用しています。現在、採用されている再生型農法の例としては、土壌かく乱の低減に重点を置いた省耕起農法や不耕起農法、土壌侵食の低減と流出防止に役立つ多様なカバークロップ(被覆作物)の植え付け、土壌生態系の回復を促す複数作物の輪作などが挙げられます。

再生型農法は長らくマニュライフ・インベストメント・マネジメントの
農地管理における中核的手法であった

再生型農法を実践する保有農地の比率

出所:マニュライフ・インベストメント・マネジメント、2023年時点。本統計は、2023年時点の農地ポートフォリオに含まれる物件の90%を表しています。2023年の途中から管理されている物件、2023年中に稼働していない物件、テナント以外の第三者(管理会社など)が管理している物件、農地プラス資産などのカテゴリーに属する物件は含まれていません。データ収集は2024年1月。地理的な位置や栽培される農作物によっては、再生型農法の実践が現実的でない場合もあることにご留意ください。

土壌の健康が環境再生型農業の中心

環境再生型農業の効果は多岐にわたりますが、基本的な柱は土壌の質の向上です。土壌有機物をより多く蓄積し、微生物の活性を高めることで、再生型農法は土壌の健全化に貢献し、土壌への水の浸透能力と保水力を高め、干ばつや洪水の影響を緩和すると同時に、より回復力がある農業システムを促進します。

土壌の健全性に焦点を当てた環境再生型農業は、炭素隔離の大きな可能性を秘めています。被覆作物、不耕起栽培、バイオ炭の使用といった取り組みは、土壌の炭素貯留能力を高め、大気中の二酸化炭素を吸収して土壌に貯留することで、気候変動を緩和する可能性があります。同様に、これらの農法は土壌構造を改善し、地表の被覆を拡大する効果もあるため、再生型農法は土壌浸食率を減らし、貴重な表土を保護し、水路への土砂流出を防ぐのに効果的です。

 

ケーススタディ:農業廃棄物を再利用するための360度ループの構築

 

ワシントン州グランドビューのマニュライフ・インベストメント・マネジメントの農地管理チームは、大学や農学者と協力して、農業廃棄物を土壌生態系に戻す実験を行っています。16エーカーのリンゴ農地では、新しい農地開発の準備のために古いリンゴの木が取り除かれ、大量の木くずが残されました。チームはこの区画を6つの試験圃場に分け、木くずを処理するためのさまざまなアプローチの有効性を評価しました。バイオ炭(酸素のない状態で木材を燃やして作る多孔質の炭素物質で、土壌の栄養分を安定させる作用がある)の使用や、近くの酪農場の堆肥を使った木材チップの活用などです。

可能な限り、私たちは自社農地の原料を使用するよう取り組んでいます。バイオ炭の生産には近隣の森林を使用したことで、材料の使用において360度のループが形成され、バイオ炭の輸送コストが削減されました。これらの試験により、除去されたバイオマスのほとんどを農地に残すことで、大気中に炭素を放出してしまう焼却の代わりに、さらなる炭素削減効果が実証されると考えています。これは土壌に有機物を増やすと同時に、近隣農家の農業廃棄物処理にも役立ちます。

再生型農法は生物多様性を高める

環境再生型農業は、生息地の多様性を創出し、生態系のバランスを促進することで、生物多様性もサポートします。在来の多様な植物を栽培するなどの一般的な手法は、さまざまな植物種や野生生物種に不可欠な生息地を提供します。そして、こうした手法が多様な土地被覆を作り出し、土壌の回復力を高めるだけでなく、野生生物に多様な生息地を提供します。

再生型農法の多くは、水辺地帯や原生の草原などの自然地域を景観に組み込み、野生生物が自由に移動できるルートを提供し、野生生物の個体群の多様性を維持します。これらの生息地は、花粉媒介者、捕食者、土壌微生物などの有益な生物に餌や住処、繁殖場所を提供し、農場全体の生物多様性に貢献します。

さらに、害虫管理に重点を置いた再生型農法は、自然の害虫防除メカニズムを優先し、栽培的、生物学的、機械的防除法を組み合わせて使用します。これにより、化学農薬への依存を減らすと同時に、害虫の個体数を自然に管理するのに役立つ有益な生物の成長を促進することができます。

 

ケーススタディ:一年生作物農地での再生型農法システムの構築

 

ネブラスカ州北中部にある灌漑トウモロコシ/大豆農地で、私たちのテナントの1つは、再生型農法のアプローチで農場を管理し、購入した肥料への依存を減らしています。このテナントでは、近隣の農場から豚の糞尿を集め、土壌に必要な栄養分を補うために活用しています。土壌と水性廃棄物の両方を使って土壌に窒素、リン、カリウムを補充することで、農作物生産と動物性タンパク質生産が相互に利益をもたらす共生システムを構築し、化学合成肥料の使用量を削減すると同時に、二酸化炭素排出量を削減しています。

再生型農法による栽培コストの削減

上述の実践は生物多様性と土壌の健全性に焦点を当てたものですが、農家にとっては投入資材の使用量と栽培コストの削減にもつながります。健全な土壌はもともと肥沃で、有機物を多く含んでいます。環境再生型農業は、土壌構造、養分循環、微生物活動を強化することで、植物への養分供給を最適化し、外部からの投入の必要性を低減します。

土壌の健全性を向上させることを目的に、カバークロップやマルチング(ビニールなどで土や植物の根を覆い保護すること)などの再生型農法は雑草の繁殖を抑え、土壌の水分を高め、灌漑や合成除草剤の必要性を低減します。害虫の個体数をモニタリングし、天敵となる生物の生息地の多様性を高め、害虫予防対策を実施する再生型害虫管理法は、効果的な害虫駆除を維持しながら、農薬の必要性を最小限に抑え、投入コストを削減するのに役立ちます。さらに、省耕起農法や不耕起農法など、いくつかの農法は機械への依存を減らすのに役立ち、燃料やエネルギーなどのコスト上昇を抑えられるだけでなく、メンテナンスや機械の管理コストにかかる経済的負担も軽減できます。

 

ケーススタディ:各地で土壌炭素プロジェクトを試験的に実施

 

私たちはさまざまなパートナーと協力し、アラバマ州、アーカンソー州、テキサス州、テネシー州の試験的な土壌炭素プロジェクトに複数の管理物件を登録しました。このパイロット・プログラムは、養分管理、省耕、カバークロップなどの再生型農法を取り入れることで、2,300エーカー以上の農地で高品質な土壌カーボンと温室効果ガス・クレジットを創出し、持続可能な農法の実施に伴う初期費用の相殺を支援するものです。プロジェクトに参加することで、初めてカーボン市場に参加する農家は、生態系に関連した民間の自主的な市場と協力することで得られる知識や経験という付加的なメリットも得ることができます。

良きスチュワードシップは良きビジネス(Good stewardship is good business)

生態系や環境にプラスの影響を与え、投入資材の使用量を抑えてコストを下げることで、農家や投資家の収益が向上するというのはまさに、良きスチュワードシップは良きビジネスであることを実証しています。再生型農法は、農家が長期にわたって経済的リターンを向上させる機会を提供します。土壌の健全性と肥沃度を向上させることで、作物の収量を増やし、化学合成肥料や農薬などの高価な投入資材の使用を抑制し、更には炭素クレジットを含む追加の収入源を生み出す可能性があります。さらに再生型農法は、農家が適応型の運営戦略を採用し、生態系からのフィードバックに基づいて土地管理方法を継続的に改善することを促します。この適応型アプローチにより、農家は持続的に資源利用を最適化し生産性を最大化することができ、経済的リターンの向上が期待されます。

環境再生型農業の実践による投入財および栽培コストの低減効果

サンプル農地(大豆/トウモロコシ)における栽培コストの比較
(米ドル/エーカー)

出所:米国農務省 Agricultural Resource Management Survey フェーズ2、2022年2月25日

認証:課題に対処するための積極的な一歩

環境再生型農業は多くの可能性を秘めていますが、その普及を妨げる課題も存在します。主な障壁は、従来の農法が依然として好まれる可能性のある現在の市場インセンティブです。農業界全体が、環境再生型農業を広く採用することに対して、リスクを嫌う傾向があります。特に、収量のばらつきや害虫管理の有効性、経済的な成功が証明されていないことなどに関わる不確実性に直面した場合です。農業経営者の間で環境再生型農業の利点についての認識を高め、その利点に関する成功事例を伝播させるためには協調的な努力が必要ですが、運用機関投資マネージャーが積極的に取ることができる重要なステップは、再生型農法を採用した農家を評価し、報酬を与える認証プログラムに参加することです。私たちは、同業他社の数社とともに、リーディング・ハーベストの設立に協力しました。リーディング・ハーベストは、より持続可能で強靭なグローバル農業システムへの移行を加速させるため、第三者機関による監査基準、成果主導のコラボレーション、学習ネットワークを通じて、バリューチェーン全体を動員する非営利団体です。リーディング・ハーベストは農業慣行の基準を導く13の原則を通じて、持続可能な農法、特に土壌の健全性を高める農法について、信頼できる検証を提供しています。業界のパートナーや第三者認証機関と協力することで、業界は持続可能な農業のための信頼できる基準と認証基準を確立することができます。

継続的発展へのコミットメント

私たちは、環境再生型農業が農業システムの持続可能性と回復力を強化する上で極めて重要な役割を果たすと同時に、投資家にプラスの経済的リターンをもたらすことを認識し、環境再生型農業への投資に強い信念と固い決意を抱いています。持続可能な管理の再生システムに向けての前進に専念することで、経済的リターンを最大化するだけでなく、環境再生型農業の実質的な生態系へのインパクトを大規模に定量化することを目指しています。再生型農法を拡大するために農地管理チームとテナントを支援することで、私たちは単に作物を育てるだけでなく、今後何世代にもわたって地域社会と地球を持続的に養うことのできる、長期的で強靭な資産を育てていきたいと考えています。生態系の繁栄と経済の繁栄が手を取り合うような、再生可能な未来に向けて、私たちは共に前進していくことができるのです。

※本レポートのオリジナルはGlobal AgInvestingに掲載されたものです。

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