農地投資:ロシア・ウクライナ危機~農業市場への影響

ウェイイー・ツァン、Ph.D.
シニア・アグリカルチュラル・エコノミスト

キース・バルター
シニア・アドバイザー、ストラテジック・イニシアティブ
森林農地部門

ロシア軍のウクライナ侵攻は、ウクライナの農業輸出に大きな影響を及ぼす可能性があります。ウクライナの農業市場への影響の大きさおよび期間は、当紛争中に受けた物的被害の深刻さに依ります。

ウクライナは大規模な農業生産国で、トウモロコシ生産で世界第6位、トウモロコシ輸出で第4位に位置しています1。また、菜種やヒマワリといった油糧種子や、小麦、大麦、ライ麦等の穀物の主要輸出国でもあります。これらの製品の大半は、グローバルな様々な取引先に輸出されています。ウクライナにおいては、作物生産、加工、流通を合わせた農業が主要産業であり、ウクライナのGDPの約17%を占めています2。国内での戦争は農業生産と流通に混乱をもたらすと見込まれます。ウクライナが生産して輸出する作物の世界的な貿易の流れは、紛争の期間とウクライナのインフラへの物的被害の深刻さによって大きく変化すると予想されます。

ロシアとウクライナの主要作物と生産量

ロシアとウクライナは農業の特徴が似ており、ともに主要な穀物・油糧種子生産国および輸出国です。小麦、ヒマワリの種、大麦、トウモロコシ、大豆がロシアとウクライナ双方の国で農地面積の上位 5 位となっています。上位5つの作物の作付面積は、ロシアの総収穫農地面積の80%(6,400万ヘクタールのうち5,100万ヘクタール)およびウクライナの全農地の83%(2,700万ヘクタールのうち2,200万ヘクタール)を占めています3

ロシアとウクライナはともに、主要な油糧種子生産国です。ウクライナはヒマワリの種やひまわり油、ひまわり油かすの生産で世界第1位、ロシアは3つのカテゴリー全て第2位に位置しています4。ロシアとウクライナはヒマワリ搾油における世界の2大拠点でもあります。また、両国は主要穀物の重要な生産国であり、小麦、トウモロコシ、大麦の生産量と輸出量でトップ10に位置しています。

農業貿易

ウクライナで生産される主要な穀物と油糧種子製品のほとんどは輸出されていますが、ロシアの穀物と油かすは主に国内消費用です。

ロシアの穀物と油糧種子製品は主に国内消費向け、ウクライナは輸出向け
2021年の国内および輸出市場向けの穀物および油糧種子製品の数量

出所: USDA Foreign Agricultural Service Production Supply and Distribution、2022年3月3日。 穀物には、小麦、トウモロコシ、大麦などが含まれます。油糧種子製品には、ヒマワリの種および大豆で作られた油と油かすが含まれます。

穀物は両国の最も重要な農産物輸出品で、2020年にはロシアで94億米ドル、ウクライナで95億米ドルの輸出額となっています。ロシアとウクライナでは穀物の取引相手国が異なります。ロシアの主要な穀物輸出先は中東・北アフリカ地域に集中しており、この地域が2020年の穀物輸出全体の57%を占めます。ウクライナの穀物の輸出先はより多様であり、主要な取引先は東アジア、ヨーロッパ、中東・北アフリカ地域、およびその他地域に広がっています。中国はウクライナ最大の穀物市場であり、輸出額は19億米ドル、同国の穀物輸出の20%を占めます。

ロシアとウクライナで異なる穀物の貿易相手国

2020年のロシアの穀物金額別輸出先(千米ドル)


2020年のウクライナの穀物金額別輸出先(千米ドル)

出所: International Trade Centre, United Nations Conference on Trade and Development /World Trade Organization, Trade Map、2022年3月3日

油糧種子作物および製品も、ロシアとウクライナにとって重要な農産物輸出品です。ロシアは2020年に油糧種子作物および製品を31億米ドル輸出し、ウクライナはこの2つのカテゴリー合計で34億米ドル出荷しています。ロシアとウクライナは、エクスポージャーの程度は異なるものの、同じような輸出市場地域を有しています。ロシアの油糧種子作物および製品の主な輸出市場は東欧諸国と東アジア、主に中国であり、その他のヨーロッパ諸国向け輸出は4分の1以下です。ウクライナの油糧種子作物および製品の貿易相手国は、東欧地域以外のヨーロッパ諸国向けが多く、2020 年のウクライナの油糧種子作物および製品輸出全体の 40%近くを占めます。トルコは、黒海地域での軍事行動によって最も影響を受ける油糧種子作物および製品の輸入国で、その総輸入量の30%をロシアとウクライナに依存しています。

ロシアとウクライナでは油糧種子作物および製品の貿易相手国が異なる

2020年のロシアの油糧種子作物および製品の金額別輸出先(千米ドル)


2020年のウクライナの油糧種子作物および製品の金額別輸出先(千米ドル)

出所: International Trade Centre, United Nations Conference on Trade and Development /World Trade Organization, Trade Map、2022年3月3日

世界の穀物および油糧種子貿易ネットワークは、依然としてショックに対して脆弱

ロシアとウクライナから輸出される穀物や油糧種子、特にヒマワリの種や製品が大量に失われる可能性があり、グローバルな穀物や油糧種子の貿易ネットワークにショックをもたらす可能性があります。穀物や油糧種子作物の世界有数の生産国である米国とブラジルは、輸出に対する一段の需要を見出すはずです。南米のラニーニャ現象による生産減少のおそれとともに、翌販売年の供給が逼迫し、作物価格を押し上げる可能性があります。市場の不確実性が高まり、米国のトウモロコシ先物の価格は2月、小麦や大豆と同様に大幅に上昇しました。一方、農業投入財の分野でも、その影響を警戒しています。肥料貿易に混乱が生じる可能性は、世界の肥料サプライチェーンにも大きな影響を与え、生産者の肥料コストに上昇圧力がかかり、エネルギー価格の高騰と相俟って、世界中の農業の運営コストを広範に上昇させると予想されます。投入コストの上昇と作物価格の上昇がどの程度釣り合うかが、今回の危機が世界の農業経済に与える影響を決定するため、注視が必要と考えます。

  1. https://apps.fas.usda.gov/psdonline/app/index.html#/app/topCountriesByCommodity
  2. https://www.export.gov/apex/article2?id=Ukraine-Agricultural-Machinery
  3. https://www.fao.org/faostat/en/#data/QCL
  4. USDA Foreign Agricultural Service Production Supply and Distribution、2022年3月2日

リスクと手数料については、以下をご覧ください。
https://www.manulifeim.com/institutional/jp/ja/jp-risks-and-fees-guide

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