森林農地投資:補完的投資の特性を持つリアルアセット

ハンコック・ナチュラル・リソース・グループ

トーマス・サルノ
森林投資グローバル・ヘッド

オリバー・ウィリアムズ、CFA
農地投資グローバル・ヘッド

キース・バルター
マネージング・ディレクター、エコノミック・リサーチ

森林農地投資は歴史的に投資資本の保全、優れたパフォーマンス、安定したインカム・リターン、低~中程度のリスク、高い分散効果といった特徴を発揮してきた魅力的な長期投資資産です。本稿では、森林農地投資戦略を組み入れることで投資対象範囲と機会がどのように広がり、個々の投資目標に合致した多様な選択肢を提供できるかについて、解説します。

森林農地投資:概要

森林投資と農地投資はいずれも樹木や作物の成長によって、インカムの創出と、物件の価値上昇によるキャピタルゲインの実現を目指します。人口増加と経済規模の拡大に伴い、食料や住居の需要は増大し、それが森林農地投資の主要なリターンの基盤となっています。世界の1人当たりGDPと人口増加に加え、農村部から都市部への持続的な人口流入が農産物や木材製品の需要を増大させる要因となっています。しかし、商業的に運営可能な森林や農地の供給は限定的であるため、世界人口の増加や都市化傾向に伴い、最大限に効率的かつ環境的に持続可能な方法で農産物の耕作や森林の管理を行う必要性が高まると見られます。

森林投資と農地投資はいずれも比較的魅力的なリスク調整後リターンとインフレヘッジ効果を実現してきました。過去の実績として、森林投資は4~10%の実質トータル・リターン(インフレ調整後)、7~13%の名目トータル・リターンを達成しています。農地投資のインフレ調整後リターンは4~9%で、名目トータル・リターンは6~13%、名目インカム・リターンは5~8%でした。歴史的に森林投資と農地投資の投資パフォーマンスには明確な類似性があります。

森林農地投資は、伝統的な金融資産との正あるいは負の低相関を持つため、分散投資の効果によって複数資産で構成されるポートフォリオ全体のパフォーマンス向上に役立てることができます。森林投資と農地投資の相関は過去25年間で平均約0.63と、正の相関ではあるものの、完全相関ではありません。

米国の森林投資と農地投資の相関(1995~2019年)

出所:モーニングスター、Macrobond、NCREIF、ハンコック・ナチュラル・リソース・グループ、2019年12月

森林農地をはじめとするリアルアセット投資では、米国市場が世界最大であり、取引も最も活発です。米国不動産投資受託者協会(NCREIF)のインデックスに参加する機関投資家が保有する2019年12月現在の残高は、米国の森林が約232億米ドル、米国の農地が114億米ドルです。NCREIFは1991年以降1、リアルアセットのインデックスを整備してきており、資産クラス別に最も一貫したパフォーマンス・データを提供しています。調査の対象は米国を中心としているため、米国市場に関する直接的な洞察を得ることができます。この分析と社内の専門知識を活用して、また最近では入手可能なその他のデータも合わせて、グローバル市場と国別のパフォーマンスを予測することが可能です。

森林農地投資による幅広い分散投資

森林農地投資は、これまでに投資資本の保全、優れたパフォーマンス、安定したインカム・リターン、低~中程度のリスク、高い分散効果といった特徴を発揮してきた魅力的な長期投資であるとマニュライフ・インベストメント・マネジメントは考えています。また、森林農地投資戦略をポートフォリオに組み入れることで投資ユニバースが広がると同時に、グローバルな投資アプローチによって地域ごとに異なる市場のダイナミクスを活かして、より柔軟に資金を投じることが可能になると考えます。また、幅広い投資ユニバースの中で相関が低い市場を投資対象とすることも、分散効果をもたらすと考えています。

森林農地投資は他の資産クラスと比較すると、歴史的に同等レベルのリスクでより高いリターンを実現しています。

米国の各種資産クラスのリスクとリターン(1995~2019年)

出所:モーニングスター、Macrobond、NCREIF、ハンコック・ナチュラル・リソース・グループ、2019年12月

シャープ・レシオで測定したリアルアセットのリスク調整後リターンは、1995年~2019年の25年間、高水準を維持しています。リスク調整後リターンが最も高いのは農地投資で、シャープ・レシオは1.30、次が商業用不動産、プライベート・エクイティ、森林投資で、シャープ・レシオはそれぞれ0.94、0.86、0.71です。

米国資産のシャープ・レシオ(1995~2019年)

出所:モーニングスター、Macrobond、NCREIF、ハンコック・ナチュラル・リソース・グループ、2019年12月

活用に向けて:森林農地投資の過去数十年間のパフォーマンス

森林投資と農地投資はこれまで、特定の経済状況や政策の下で異なるパフォーマンスとなる傾向がありました。両資産のパフォーマンスの違いを明確にするため、商業用不動産のリターンを参考として加え、3つの期間における各資産のパフォーマンスを比較しました。商業用不動産は森林農地投資と類似した特性を持ち、リターンは一定程度の正の相関を有していますが、明確な差異もあります。最初の期間は1976~1990年で、森林農地投資の合成リターンが入手可能となった最も初期の期間です。1991~2009年の期間は、3つの資産クラスすべてのリターンについてNCREIFによるデータが入手できるようになった期間で、最後の2010~2019年は世界金融危機以降の期間です。

リアルアセットの平均リターン(%)

出所:私募の農地投資、森林投資および商業用不動産のトータル・リターン(年率)の出所は、それぞれNCREIFが作成する米国農地投資、米国森林投資および米国商業用不動産の物件レベルの指数です。森林投資の1976年から1986年までのパフォーマンスの出所はハンコック・ナチュラル・リソース・グループの合成指数、John Hancock Timberland Indexです。農地投資の1976年から1986年までのパフォーマンスは2019年12月のIbbotson Associatesを出所として作成されています。

森林投資、農地投資、商業用不動産の全期間にわたる資産レベルの平均名目トータル・リターンは1桁台後半から2桁台前半です。森林投資は最初の期間の平均リターンが15.2%と、3つの期間で最も好調なパフォーマンスとなったのに対し、農地投資の平均リターンは最低となりました。この期間には農業不況が発生した1980年代が含まれる一方で、森林投資のリターンについては、林産品会社の保有する森林の収益化が拡大したこと、日本向け木材輸出が好調だったこと、住宅市場が景気循環のピークに達したことがプラス寄与しました。世界金融危機に至るまでの15年間、森林投資と農地投資はそれぞれ12.2%と11.3%という比較的良好なリターンを達成しています。

世界金融危機の発生により、米国の住宅建設は歴史的な崩壊に見舞われ、危機以降も住宅市場の回復が大幅に遅れたことから、森林投資のリターンは平均4.5%まで急激に低下しました。しかし、世界金融危機以降の農地投資のリターンは平均11.1%と極めて良好で、世界経済の減速による影響を受けにくいことが実証されました。農地投資の好調なリターンを支えた要因は、米国政府による自動車燃料でのバイオエタノールの使用の義務付けや貿易摩擦で米国のエタノール輸入が制限されたこと、米国中西部での一年生作物の干ばつと、中国によるアーモンドやピスタチオといった高付加価値の永年作物を含む農産物の輸入が増大したことを一因としてコモディティ価格が過去最高水準となったことです。

上記グラフのリターン数値は以下の表の通りです。効果的に分散されたポートフォリオにおける森林農地投資の補完的な特性が見られます。

リアルアセットの平均リターン
平均名目リターン(年率、%)

出所:私募の農地投資、森林投資および商業用不動産のトータル・リターン(年率)の出所は、それぞれNCREIFが作成する米国農地投資、米国森林投資および米国商業用不動産の物件レベルの指数です。森林投資の1976年から1986年までのパフォーマンスの出所はハンコック・ナチュラル・リソース・グループの合成指数、John Hancock Timberland Indexです。農地投資の1976年から1986年までのパフォーマンスは2019年12月のIbbotson Associatesを出所として作成されています。

分散されたポートフォリオの構築によるマクロ経済要因と市場リスク要因の管理

商業用不動産や金融資産と同様、森林農地投資はマクロ経済要因と市場リスク要因の影響を受けます。森林投資の場合、住宅建設が需要の主な源泉であり、投資を左右する重要な要因です。住宅需要は景気循環性があるため木材価格が大きく変動することがありますが、多くの場合、森林保有者は、樹木の育成を継続して市況回復に合わせて収穫を延期する裁量があります。農地投資の場合、外国為替レートや国際貿易協定など、国際貿易の動向が重要な検討課題となります。森林農地投資には、多様な種類の樹木や作物(一年生作物と永年作物)があり、最終消費市場も多岐にわたります。森林農地投資家は、広範囲にわたる投資の選択肢の中で分散したポートフォリオを構築し、様々なリスク要因へのエクスポージャーを抑制することができます。

森林農地投資は、市場リスクやマクロ経済要因のほか、天候、害虫・害獣、病気による作物への物理的被害を受けるリスクを伴います。一般的にこうした物理的被害のリスクが年間の収入に対する比率は比較的小さく、農地や森林の運営管理手法や農地の農業保険、さらに最も重要なこととして地理的に分散したポートフォリオを構築することによって未然に対処することが可能です。気象イベント(干ばつ、洪水、ハリケーンなど)の影響と病気や害虫の蔓延は特定地域に限定されることがほとんどです。ポートフォリオを地理的に分散することで、こうした物理的リスクによる被害は緩和、限定されると考えます。さらに、こうしたイベントによる物理的被害を原因とする供給の減少は、被害地域の製品価格へのプラスの影響によって相殺されることがよくあります。

森林農地投資の過去のパフォーマンスと特性から判断して、これら2つの資産クラスを機関投資家の広範なポートフォリオに組み入れることで、優れたリスク調整後リターンが得られる可能性があり、また、地域で異なるダイナミクスを活かしたグローバルな投資アプローチにより、さらなる分散効果が期待できると考えます。

  1. 過去の森林投資(1987年)と商業用不動産(1978年)のNCREIFの物件レベルのデータ。NCREIF Farmland Indexは1991年に策定され、農地投資分析における最初期の共通データとして活用されています。
  • 私募の農地投資、森林投資および商業用不動産のトータル・リターン(年率)の出所は、NCREIFが作成する米国商業用不動産、米国農地投資および米国森林投資の物件レベルの指数です。この手数料控除前の米国指数(名目ベース)の算出方法については、https://www.ncreif.org/をご覧ください。森林投資の1976年から1986年までのパフォーマンスの出所は、ハンコック・ナチュラル・リソース・グループが合成したJohn Hancock Timberland Indexです。農地投資の1976年から1990年までのパフォーマンスの出所は、Ibbotson Associatesです。上場株式のトータル・リターン(年率)は、S&P 500指数。米国小型株式はMorningstar Ibbotsonが公表しているIA SBBI U.S. Small Stock Indexes。米国長期社債はMorningstar IbbotsonのIA SBBI U.S. Long-Term Corporateシリーズ。グローバル株式(除く米国)は、各地域の上場大型株および中型株のパフォーマンスを示すMSCI欧州、オーストララシア、極東インデックス。コモディティのトータル・リターンはGoldman Sachs Commodity Index。インフラストラクチャーのトータル・リターンはPreqin Infrastructure Index。指数に直接投資することはできません。過去の運用実績は将来の結果を保証するものではありません。
  • ハンコック・ナチュラル・リソース・グループは、マニュライフ・インベストメント・マネジメント・グループ傘下の森林・農地運用会社です。

リスクと手数料については、以下をご覧ください。https://www.manulifeim.com/institutional/jp/ja/jp-risks-and-fees-guide

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世界的なパンデミックなどの公衆衛生危機は、市場のボラティリティの大幅な上昇、証券取引の停止等の原因となり、ポートフォリオのパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があります。例えば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界の経済活動に深刻な打撃を与えています。将来、発生する可能性のある公衆衛生危機、およびその他のエピデミックやパンデミックは、現時点では必ずしも予測可能ではない影響をグローバル経済に与える可能性があります。公衆衛生危機は、既存の政治的、社会的、経済的リスクを悪化させる恐れがあります。こうした事象はポートフォリオのパフォーマンスに悪影響を与え、投資に損失が生じる可能性があります。

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