森林投資:米国の住宅建設と森林投資のパフォーマンス~回復から一転減速か?

デビッド・フォーティン
シニア・ディレクター、経済リサーチ
森林農地部門

メアリー・エレン・アロノー
ディレクター、森林経済担当

2022年初めの米国住宅市場と針葉樹材市場は堅調な回復傾向にあったものの、その後の利上げと住宅価格の持続的な上昇を受けて鈍化しました。本稿では、足元のボラティリティと中期的なリスクの両方を緩和する要因として同資産クラスの基本的なファンダメンタルズを考察します。

米国森林投資のパフォーマンスは住宅市場と木材市場の動向に大きく影響されます。2020年のコロナ禍に誘発されたリセッション(景気後退)を脱し、森林投資のパフォーマンスは米国の住宅市場と針葉樹材市場の堅調な回復を一因として上昇しました。両市場の回復の勢いは2022年初めにかけて続いたものの、米連邦準備制度理事会(FRB)が急激なインフレを抑制するために金融政策を転換し、利上げに踏み切ったことから急速に弱まりました。そのため、2022年の米国の住宅市場と木材市場の見通しは回復から一転減速という全く対照的なものになりそうです。2022年上期の住宅建設市場は依然として、在宅勤務の急速な普及に対応してスペース拡張の必要性が高まったことによる旺盛な需要、良好な家計状況、歴史的低水準の住宅ローン金利に支えられていました。しかし、2022年半ばに差し掛かると、急速な利上げと住宅価格の持続的な上昇により住宅の値ごろ感は減退し、住宅購入者や住宅建設業者の心理の重石となりました。米国住宅市場に残っていた上昇気運は2022年半ばには完全に消滅し、住宅市場と木材市場は調整局面に入り、森林の収益の短期的見通しは不透明になりました。

住宅建設の減速に伴い、ダグラスファー第2等級以上、サイズ2×4木材の価格は2022年初めにつけた直近の最高値である1,000ボードフィート(MBF)当たり1,515米ドルから年半ばには54%下落して690米ドル/MBFとなりました。また、経済状況をめぐる不透明感の高まりは木材市場にも広がり、2022年後半から2023年にかけて需要と価格はいずれも低下することが予想されます。こうした展開を背景に、林産品および木材市場の短期見通しはますます弱気となり、足元の景気サイクルが2008~2009年の世界金融危機(GFC)で発生した暴落に匹敵するような住宅市場と木材市場の下落を引き起こす恐れはないかとすら危惧されています。しかし、米国の住宅市場の現状を過去の状況と照らし合わせて評価し、住宅市場の基本的なファンダメンタルズを深く掘り下げて調べ、カーボン・オフセット需要の増大や米国南部の製材所の製材能力の大幅な拡大といった市場動向を考慮すると、森林投資のパフォーマンスが急激に悪化することはないと私たちは考えています。これらの要因は、足元のボラティリティと森林投資のリターン見通しに対する中期的なリスクを抑制する上で役立つと思われます。

住宅取得能力の低下

2022年4月に米国の住宅着工件数は180万戸(季節調整済み年間換算)とサイクルのピークに達しましたが、利上げに住宅価格の上昇が重なって住宅取得能力は低下し、住宅建設にも影響が波及しました。住宅着工件数は5月から7月までの3ヶ月間に合計359,000戸の大幅な減少を記録し、145万戸となりました。2022年上期に米国の住宅ローン金利は急激に上昇し、従来の30年固定住宅ローン金利は2021年末の3.11%から6月末の5.70%へと259ベーシスポイント上昇しました。住宅価格の急騰ですでに予算が逼迫している時に住宅ローン金利が大幅かつ急速に上昇したことで、400,000米ドルの住宅を購入した場合、住宅所有者の平均月間返済額(30年固定住宅ローンで頭金は20.0%)は推定489米ドル(36%)増加します1。こうした金利上昇と住宅価格上昇(6月も前年同月比18.0%増の高水準が継続)の強い影響により、6月の全米不動産業者協会の住宅取得能力指数(Housing Affordability Index)は98.5と前年同月比で31.0%低下し、1990年以来最低の水準となりました。

住宅取得能力は金利上昇と住宅価格上昇の圧力で低下
月間住宅取得能力指数(全米不動産業者協会)

出所:全米不動産業者協会、月間住宅取得能力指数、2022年9月7日。許可を得た上で転載。指数に投資することはできません。

住宅取得能力は急激に悪化したものの、住宅所有者の家計は世界金融危機の時期ほど逼迫していません。個人可処分所得に占める住宅ローン債務返済額の割合で見た住宅所有者の債務負担は過去40年以上で最低水準近辺にとどまっており、世界金融危機時の水準を400 bps下回っています。多くの住宅所有者は2020年から2021年にかけての歴史的低金利を活かして、破格の低金利で固定住宅ローン金利に借り換えた可能性があります。さらに、世界金融危機に至る時期と比較すると、銀行の貸出基準は格段に厳格化され、モーゲージ銀行協会のMortgage Credit Availability Indexは金融危機直後につけた低水準近くで推移し、住宅ローン市場全体のリスク特性は格段に低水準となっています2。こうした要因に支えられ、市場は世界金融危機で経験した住宅市場崩壊の再来を回避することができ、急速な回復を可能にする耐性があると思われます。

家計は現在の住宅ローン返済に対処する能力が十分ある
可処分所得に占める住宅ローン返済額の割合(四半期別、季節調整済)

出所:FRED Economic Data、2022年9月8日現在

人口動態と供給の制約が見通しを下支え

2022年後半から2023年にかけて住宅着工件数の減速要因となる逆風は続く可能性がありますが、現在の人口動態と住宅在庫が異例の低水準にあることが米国の中長期的な住宅需要を下支えし、さらにその効果は木材製品や木材の需要にも及ぶと思われます。こうした人口動態の有利な側面は経済状態とは関係なく続き、現在、米国最大の人口層は主要な住宅取得年齢に達しています。

住宅供給の制約も中長期的な住宅建設を下支えすると思われます。住宅建設は10年以上にわたって低水準が続き、住宅着工件数(生産)は住宅需要を大きく下回ってきたため、2022年第2四半期末までに推定400万戸と膨大な量の繰延需要が発生しています3。住宅需要の更なる増加を示唆する人口動態と併せ、住宅着工件数が足元で減少傾向にあることから、住宅着工がさらに大幅に長期にわたって減少した場合、住宅の在庫不足は拡大し続ける可能性があります。こうした動向により、現在のサイクルにおける住宅着工件数は、金融危機時に経験した最低水準を大幅に上回る水準で下支えされると思われ、それは2020年代末まで続くと期待されます。

製材用丸太の足元の需要は、米国住宅市場の良好な潜在需要というファンダメンタルズに加え、現在建設中で未完成の住宅受注残が増加していることも下支えの一因となると思われます。建設中の住宅戸数は、サプライチェーンの混乱と労働力不足のために建設ペースが大幅に減速していた4ことから、2022年7月現在、168万戸と前年比で21%増加して過去最高に近い水準に達しています。こうした住宅が完成するまでにさらに多くの材木を消費し、丸太需要を下支えします。ごく短期的にはこの繰延られた木材消費によって住宅着工件数の減少に伴う木材および丸太の需要へのマイナス影響が一部相殺されると思われます。

建設中の新規住宅着工件数は過去最高
米国の建設中の新規住宅着工件数

出所:月間新規住宅建設戸数、7月22日。米国国勢調査局および住宅都市開発省、2022年8月16日

住宅市場と木材市場の足元の減速と継続的な課題は森林投資の短期的な見通しの重石となるものの、住宅所有者の家計状況が良好であることに加え、足元の人口動態と販売可能な住宅在庫が異例の低水準であること(建設中の住宅の受注残を含む)を背景に、足元の米国住宅市場の反落と木材市場への影響の規模と期間は限定的であると思われます。製材業者はすでにこうした強いファンダメンタルズを見越して、米国南部で2024年までに新たに製材能力を45億ボードフィート追加することを計画しており、新規能力の稼働が開始すると、追加的な木材需要が生み出されると思われます5。炭素隔離と温室効果ガス排出削減のためのナチュラル・クライメート・ソリューション(NCS、自然由来の気候変動対策)として森林の需要が急速に伸びていることも森林投資のパフォーマンスをさらに下支えし、収益源の分散になると期待されます。これは、住宅市場の良好なファンダメンタルズと合わせて、森林市場が荒波のような変動を乗り切り、その先に待つ明るく落ち着いた市場環境を迎えることに繋がるでしょう。

  1. 32万米ドル(頭金20.00%で40万米ドルの住宅を購入)の支払いに際し、2021年末の30年固定住宅ローン金利平均3.11%と、2022年6月末の30年固定住宅ローン金利平均5.70%とで比較。
  2. https://www.mba.org/news-and-research/research-and-economics/single-family-research/mortgage-credit-availability-index-x241340
  3. Forest Economic Advisers、住宅需要基礎統計、2022年5月
  4. https://www.census.gov/construction/nrc/pdf/newresconst.pdf
  5. Forisk Research、Forisk Quarterly Report、2022年

リスクと手数料については、以下をご覧ください。https://www.manulifeim.com/institutional/jp/ja/jp-risks-and-fees-guide

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