米国の農地投資リターン:2022年も引き続き上昇

ウェイイー・ツァン、Ph.D.
アソシエイト・ディレクター
アグリカルチュラル・エコノミクス

米国の農地投資は全体として高い成果を上げており、今後も楽観的な見通しを持っています。

主なポイント

  • 農作物価格と農地の値上がりが、米国農地の堅調なリターンと評価額の上昇につながりました。
  • 農地の数や評価額の増加は、機関投資家による所有が増えていることを示しています。
  • 米国農地のパフォーマンスは、地域や作物の種類によって大きく異なります。
  • インフレの高進や金利の上昇にも耐えていることで、農地が持つ基本的な投資意義が高まっています。

2022年の米国農地のリターンは、農産物の健全な需要ファンダメンタルズと良質な農地資産への関心の高さを物語っています。農作物価格の上昇は堅調なインカム・リターンを生み出し、ここ数年で最も高い農地価格の上昇は、農地のバリュエーションの力強さを反映しています。米国不動産投資受託者協会(NCREIF)1によると、米国の機関投資家が所有する農地は2015年以来で最も高いパフォーマンスを示し、NCREIFのFarmland Property Index(FPI)の2022年のトータル・リターンは179ベーシスポイント(bps)上昇して9.6%となりました。この伸びはインカムとキャピタル・リターンが共に好調だった結果であり、過去10年の平均を70 bps上回っています。

農地投資のリターンは2015年以降で最高水準に
NCREIF Farmland Property Indexの年間リターン

出所:NCREIF Farmland Property Index、2022年第4四半期現在。指数に直接投資することはできません。

2022年現在、FPIは1,315件の物件を対象とするパフォーマンス指標であり、その時価総額は153億米ドルです。FPIのトータル・リターンは、インカム・リターンとキャピタル・リターン(またはキャピタル・ロス)の2つの要素から構成されています。2022年の米国農地のインカム・リターンは3.3%であり、10年平均の5.2%を187 bps下回りました。FPIによる農地価格の評価は、第三者による年次の農地鑑定評価に基づいており、この鑑定はインデックスに含まれるすべての物件に義務付けられています。2022年の鑑定評価額が高かったため、農地価格の上昇率は6.2%となりました。これは9年ぶりの高水準であり、10年平均の3.6%を258 bps上回っています。物件数と時価総額の力強い増加は、機関投資家によるこの資産クラスへの投資の拡大と、農地所有の集約化を示しています。

農地数と時価総額の増加は機関投資家による所有の拡大を反映
NCREIFの農地数と時価総額

出所:NCREIF Farmland Property Index、2022年第4四半期現在。市場価値は各年の第4四半期現在。指数に直接投資することはできません。

NCREIFは、作物種類別の詳細な農地投資リターンを公表しています。一年生作物はトウモロコシ、大豆、野菜などで、毎年の作付けが必要です。一方、永年作物は多年生の樹木、低木、つる植物であり、ナッツ、リンゴ、クランベリー、ワイン用ぶどうが収穫されます。2022年末現在、FPIに採用されている一年生作物農地は992物件、時価総額は94億米ドル(FPIの62%)であるのに対し、永年作物農地は323物件、59億米ドル(残りの38%)です。

一年生作物農地はインデックス全体の約2/3を占める
NCREIF Farmland Property Indexの作物別割合(評価額ベース)

出所:NCREIF Farmland Property Index、2022年第4四半期現在。指数に直接投資することはできません。

NCREIFは地域別の農地パフォーマンスも発表しています。2022年に時価総額でNCREIF Farmland Index中、最大の割合を占めている地域は太平洋岸西部(インデックス全体の39%)、次いでデルタ地域(19%)、コーンベルト(13%)、山岳地域(8%)です。最も小さい地域は、グレートプレーンズ南部(2%)、アパラチア(0.7%)、北東部(0.2%)の3つで、その合計はFPI時価総額の3%を下回っています。

高価値の永年作物農地が集中する太平洋岸西部は
インデックスの時価総額の39%を占める
NCREIF Farmland Property Indexの地域別割合

出所:NCREIF Farmland Property Index、2022年第4四半期現在。その他の地域には、アパラチア(0.7%)、北東部(0.2%)、グレートプレーンズ南部(1.9%)を含む。指数に直接投資することはできません。

 

地域および作物種類別のパフォーマンス

リターンは作物の種類によって大きく異なります。FPIの時価総額の62%を占める一年生作物農地は、2022年のトータル・リターンが14.4%(2021年比339 bps増)となり、過去10年間の平均の7.8%を668 bps上回りました。一方、FPIの時価総額の38%を占める永年作物農地はトータル・リターンが2.6%にとどまり、2021年対比では50 bpsの減少となり、過去10年間の平均の10.7%を下回っています。

2022年、米国の一年生作物農地のトータル・リターンは、運営によるインカム・リターンが3.8%(2021年対比15 bps増)、キャピタル・リターンが10.4%(2021年対比316 bps増)となりました。2022年のインカム・リターン上昇の要因は、国内市場と輸出市場の両方で一年生作物の好調な需要が続いたことによって農作物価格が上昇したことです。米国の一年生作物への投資家の関心の高まりが一年生作物農地のキャピタル・リターンに強い上昇圧力をもたらし、過去10年間の平均リターンである4.0%の2倍を超える上昇を記録しました。

2022年の米国一年生作物農地投資は、キャピタル・リターンと
インカム・リターンの上昇により、トータル・リターンが向上
米国一年生作物農地投資のリターン

出所:NCREIF Farmland Property Index、2022年第4四半期現在。指数に直接投資することはできません。

逆に、米国の永年作物農地のトータル・リターンは、市場特有のさまざまな問題により、2.6%と控えめな結果となりました(2021年対比で50 bps減)。これは、1991年のNCREIF FPI設定以来3番目に低い年間パフォーマンスです。永年作物のインカム・リターンは2.7%と、前年比で186 bps減少しましたが、2022年のキャピタル・リターンはほぼ横ばいとなり、3年続いた評価額の低下に歯止めがかかりました。永年作物の相対的に低水準なパフォーマンスは、2022年に生じたグローバルな需給混乱により果物やナッツの価格見通しがまちまちで、困難な状況が続いたためです。こうした混乱に加え、FPIの時価総額で永年作物農地の85%が存在する太平洋岸西部地域の水不足をめぐる懸念が広がっています。

米国の永年作物のインカム・リターンは低下、評価価格は安定
米国永年作物農地投資の年間リターン

出所:NCREIF Farmland Property Index、2022年第4四半期現在。指数に直接投資することはできません。

FPIの永年作物農地の時価総額の18%を占めるアーモンドは、永年作物農地投資全体のリターンの足かせとなりました。そのトータル・リターンは3年連続で低下し、2022年には−2.3%となりました。この低下は、高い在庫水準が続いていることで価格水準が抑制されていることによるもので、2022年前半の輸送問題や、カリフォルニア州での水不足への懸念によって評価価格が低下したことも影響しました。その一方、リンゴは8.5%のキャピタル・リターンと3.7%のインカム・リターンに支えられ、12.3%のトータル・リターンを達成しました。ワシントン州のリンゴの収穫量が数年連続で低調だったため供給が不足しており、需要の回復やリンゴ価格の上昇を目指した新たな取り組みが投資家に恩恵をもたらしました。

NCREIF Farmland Property Indexの全地域が2022年にプラスのリターンを達成
米国農地投資の地域別年間リターン

出所:NCREIF Farmland Property Index、2022年第4四半期現在。指数に直接投資することはできません。

2022年は、FPIの11地域のすべてでインカム・リターンとキャピタル・リターンがプラスとなりましたが、地域ごとに大きなパフォーマンスのばらつきが見られました。コーンベルト(28.0%)、デルタ地域(13.1%)、五大湖周辺(16.4%)、北東部(20.0%)、グレートプレーンズ北部(20.0%)では、トータル・リターンが二桁台の伸びとなり、力強いキャピタル・リターンと安定したインカム・リターンを示しました。一方、太平洋岸西部は最もパフォーマンスが悪く、2022年のトータル・リターンは2.8%で、全体のFPIのトータル・リターンに比べ686 bps低く、前年実績を87 bps下回りました。同地域の時価総額の84%を占める永年作物農地は、わずかに1.7%のトータル・リターンにとどまり、同地域の一年生作物農地が生み出した9.2%のトータル・リターンを大きく下回りました。

インカム・リターンとキャピタル・リターンはプラスだが、地域差が顕著
2022年の米国の地域別農地リターン(NCREIFの11地域)

出所:NCREIF Farmland Property Index、MIMTAリサーチ、2022年第4四半期現在。指数に直接投資することはできません。

回復力と際立ったパフォーマンス

米国の農地投資は2022年に全般的に高いパフォーマンスを上げており、今後も楽観的な見通しを持っています。マクロ経済的には、昨年の高インフレや高金利の下でも農地投資のリターンが回復力を示したことで、インフレに強い安定したリスク調整後リターンという農地投資の基本的な投資テーマが強くなりました。

今後も、健康的で栄養価の高い食生活を求める人々の増加により、世界の農産物需要は拡大し続けると思われます。国内需要と国際貿易需要の拡大が明るい見通しを支える一方、土壌の炭素吸収能力に着目したカーボンクレジット市場の発展により、新たな需要分野が生まれる可能性もあります。供給面では、南米の干ばつの影響が長引いており、世界的に作物の在庫水準が低下していることから、価格は過去平均を上回る高い水準で下支えされています。一方で、逆風もあります。インフレ圧力は、今後も生産コストを通じて米国の農業の負担になると思われます。また、世界の地政学や気候の不確実性が生産と貿易にとって引き続き大きなリスク要因になります。それでも、サステナブルに管理された農地は、プラスの利回り、低ボラティリティ、そしてナチュラル・クライメート・ソリューションからの潜在的利益を求める投資家にとって引き続き魅力的であると考えます。

 

  1. NCREIFは、機関投資家が投資した米国の農地物件レベルのパフォーマンスを収集し、その集計結果をFarmland Property Index(FPI)で発表しています。マニュライフ・インベストメント・マネジメントは、FPIの参加メンバーです。このインデックスでは、参加マネージャーはすべての対象物件を報告する義務があります。本データの利用は、物件の売買を勧誘するものではありません。

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